研究課題
ホヤやウニなどの走化性を示す精子に見られる遊泳方向の制御は、カルシウム濃度に依存した鞭毛運動の変化によって引き起こされる。しかし、膜タンパク質を介する細胞内カルシウム濃度の調節、およびカルシウムによる鞭毛運動の制御の機構はほとんど解明されていない。本研究では、カルシウム反応を「機械刺激により誘導」するという技術的ブレークスルーにより、遊泳方向変化に対応するカルシウム動態を高精度で定量化し、矛盾する2つの説(対称波となるのは細胞内カルシウム濃度が低い時か高い時か)に決着を付ける。さらに、その全容が不明であるカルシウム流入と排出の機構について新しいモデルを提案し、その検証実験を行う。そのモデルを元に、カルシウムによる鞭毛運動制御の解明の方向性を示すことを目指す。具体的には主にウニ精子を用い、機械刺激により誘導されるカルシウム反応機構を、阻害剤などを用いた生理的解析と関与タンパク質のフラジェラシアリンを手がかりとした分子生物学的解析により明らかにする。これまでに、ウニ精子に頭部の機械刺激による鞭毛反応を誘導し、遊泳軌跡と鞭毛波形の解析と共に、fluo-4 AMを用いた細胞内カルシウム濃度変化の測定を行い、機械刺激反応実験系を確立した。カルシウム流入には電位依存性のカルシウムチャネルが、排出には、K+-dependent Na+/Ca2+exchahger(NCKX)とPlasma membrane calcium ATPase(PMCA)が関与すると推測される。そこで、これらの阻害剤、およびフラジェラシアリン抗体の効果を検討した。その結果、鞭毛波が対称波となり直進遊泳を示す時には、カルシウム濃度が高い状態にあること、カルシウムの排出は、PMCAとフラジェラシアリンの協調的働きによって開始し、この段階で直進遊泳が見られ、続くNCKXの勧きにより通常の非対称波へと移行することが明らかとなった。
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Cell Structure and Function
巻: 36 ページ: 69-82
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hikaku/index.html