研究課題/領域番号 |
22370028
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真行寺 千佳子 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80125997)
|
研究分担者 |
北島 健 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (80192558)
|
キーワード | 精子 / 鞭毛運動 / カルシウム / 機械刺激 / 膜タンパク質 / ラフト / 細胞 |
研究概要 |
ホヤやウニなどの走化性を示す精子に見られる遊泳方向の制御は、カルシウム濃度に依存した鞭毛運動の変化によって引き起こされる。しかし、膜タンパク質を介する細胞内カルシウム濃度の調節、およびカルシウムによる鞭毛運動の制御の機構はほとんど解明されていない。本研究では、カルシウム反応を「機械刺激により誘導」するという技術的ブレークスルーにより、遊泳方向変化に対応するカルシウム動態を高精度で定量化し、矛盾する2つの説(対称波となるのは細胞内カルシウム濃度が低い時か高い時か)に決着を付け、さらに、カルシウム流入と排出の機構について新しいモデルを提案し、その検証実験を行うことを目指している。前年度までに、対称波が、細胞内カルシウム濃度の緩やかな減少と関連することを見いだした。今回、カルシウム流入と排出の機構の2011年発表のモデルに加えて、アクチン繊維の重合状態が排出過程に関与する可能性を示唆する結果を得た。機械刺激により誘導されるカルシウム依存性の鞭毛反応は、興味深い2つの特徴を示す。その1つは、鞭毛波形変化による遊泳軌跡の一連の変化で、底面近くでは典型的に、円軌跡C→停止反応Q→直進S→円軌跡Cを示す。アクチン繊維の重合状態を変化させると、Qが長くなる、Sが消滅するなどの排出阻害剤の効果と似た反応が誘導された。もう1つの特徴は、精子が遊泳開始後2-3分経たないと機械刺激によるこの一連の変化が起こらないことである。膜のコレステロールを破壊する薬剤処理によっても機械刺激に対する規則的反応が起こりにくくなった。従って、この反応時間の遅れは、カルシウム動態に関与する膜タンパク質が、膜内を流動し、機能ドメイン(ラフト)に集積するのに必要であるらしい。これらの結果から、カルシウム排出過程の制御には、ラフト形成とアクチン繊維の状態が関与することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機械刺激反応により精子の遊泳方向変化に対応するカルシウム動態を高精度で定量化に成功し、1)矛盾する2つの説に決着を付ける。2)カルシウム流入と排出の機構について新しいモデルを提案し、その検証実験を行う。3)そのモデルを元に、カルシウムによる鞭毛運動制御の解明の方向性を示す。という3つの目的で研究を進めてきた。 これまでにこれら3つの目的の内、1)は、既に結論を得ている。2)は、新しいモデルができつつあり、その検証もほぼ終了している。3)も実験は終了しており解析を進め(平成24年度の成果)、論文として発表できれば完了する。従って、計画は、細かな点の変更はあるが、おおむね順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
機械刺激反応により精子の遊泳方向変化に対応するカルシウム動態の高精度定量化を行い、これに基づき提示した、カルシウム流入と排出の機構についての新しいモデルについて、その検証実験を完成させる。さらに、そのモデルを元に、最終目的とする、カルシウムによる鞭毛運動制御の解明の方向性を検討し提示する。 計画は、細かな点の変更はあるが、現在大きな問題はないので、おおむね予定通りに進められる。
|