研究概要 |
特殊機能を発達させた生物の研究によってブレークスルーがもたらされることが多い。私たちは,淡水と海水の両方に適応できる特殊なフグ(メフグ)を実験生物として初めて記載した。このフグを用いて海水適応に欠くことのできない硫酸イオンとホウ酸イオンの排泄機構を明らかにするべく分子生理学的な研究を行い以下の成果を得た。海水には過剰摂取すると毒性のある硫酸イオンとホウ酸イオンが多く含まれており,これらイオンの排泄機構の解明は重要課題となっている。(1)硫酸イオン輸送体の海水による発現誘導機構の解明:メフグを淡水から海水に移すと硫酸輸送体Slc26a6Aの腎臓における発現が強く誘導される。この誘導が硫酸イオンによるものか否かを明らかにするために硫酸イオン濃度を変えた人工海水を用いて調べたところ,驚いたことに,硫酸イオン依存的ではないことが判明した。海水誘導に関係するこれまでの研究を精査すると,塩素イオンによる調節を受けている可能性が高くなった。(2)ホウ酸イオン輸送体の局在部位の決定:すでに私たちが同定しているホウ酸イオン輸送体の有力候補Slc4a11を遺伝子工学的に大腸菌で発現し,それを抗原として抗体を作製した。これらの抗体を用いて海水メフグの腎臓切片を染色したところ,ホウ酸イオン輸送体Slc4a11は腎の近位尿細管細胞の頭頂部Apicalに存在することが明らかになった。この位置関係からSlc4a11が長い間捜し求められてきたホウ酸イオン排泄分子である可能性が極めて高くなった。
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