研究概要 |
特殊機能を発達させた生物の研究によってブレークスルーがもたらされることが多い。私たちは,淡水と海水の両方に適応できる特殊なフグ(メフグ)を実験生物として初めて記載した。本年度もこのメフグを用いて海水適応に欠くことのできない硫酸イオンとホウ酸イオンの排泄機構を明らかにするべく分子生理学的な研究を行い以下の成果を得た。(1)ホウ酸輸送体Slc4a11の活性を詳細に検討するために,Xenopus oocytesの発現系を利用し,外液のイオン組成を変えて電気生理学的な測定を繰り返した。その結果,Slc4a11はホウ酸輸送体であることが確かめられたが,当初の予想とは異なり,きわだったNa+依存性は見られなかった。そこでNa+依存性の根拠となっていたヒトのホウ酸輸送体の活性と同一条件下で比較するために,ヒトのホウ酸輸送体NaBCを入手し,Xenopus oocytesの発現系で同様の解析を試みたが,ヒトのNaBC活性すなわちNa+/borate cotransporter活性が測れず,米国のグループによる前報の再検討が必要になっている。ヒトのNaBCがアフリカツメガエル卵の膜表面に移行していない可能性等を考えて,フグとヒトの輸送体のキメラ分子を作製中である。(2)人尿細管上皮細胞によるホウ酸排出にはApical膜に存在する輸送体Slc4a11の他にBasolateral膜に存在する輸送体が必要である。後者に関しては,これまで全く不明だった。私たちはアクアポリンのサブファミリーがホウ酸を輸送する可能性があると考え,フグの腎臓で発現するアクアポリンをPCRで探索し,候補分子としてAQP3,AQP7を同定した。
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