本研究では、連鎖地図ベースで、ハイマツとキタゴヨウの交雑帯における遺伝子浸透のパターンから、交雑帯に働く自然淘汰を検出することを目的とする。ベースとなる連鎖地図は、ハイマツとキタゴヨウのF1雑種と推定される個体から採集した種子を利用して主にAFLPとESTマーカーを用いて作成されている。 八甲田山・蔵王・谷川岳の3山系について、ESTマーカー遺伝子座34個(11連鎖群)を用いて、STRUCTURE解析によって分子交雑指数を計算して、交雑帯の中心地を特定した。さらに、交雑帯集団における遺伝子頻度が、中立と仮定した場合から有意にずれているかを、全148個の対立遺伝子について検定した。そのうち5%レベルで有意に頻度が偏っていた対立遺伝子を持つ遺伝子座は八甲田で15個、谷川で27個、蔵王で27個だった。これらのうち3山系で共通して有意に中立頻度から逸れた対立遺伝子を持つ遺伝子座が4個見られた。これらの遺伝子座を含む染色体ブロックには、自然選択が働いている事が示唆される。 さらに、連鎖不平衡係数Rの値から交雑帯形成開始年代の推定を行った。マーカー遺伝子座間の地図距離が1~5cMの強く連鎖した5グループのマーカー対を用いた。八甲田では、交雑開始時の連鎖不平衡係数推定値とほぼ同じ値になった。一方、谷川では約9世代目、蔵王では約33世代目という結果が得られた。谷川では純粋なハイマツが交雑帯周辺に少なく、蔵王ではハイマツとキタゴヨウが融合しており、純粋なハイマツまたはキタゴヨウと推定される個体が存在しない。交雑親種の移入が蔵王では厳しく制限されている事が、連鎖不平衡の減少につながった可能性がある。
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