東京大学大気海洋研究所学術研究船「淡青丸」の研究航海を主催し、北海道沖の日本海および太平洋でビームトロールによる深海性底生魚類の分布調査および採集をおこなった。また、東北海区水産研究所および日本海区水産研究所による深海水産資源調査航海に参加し、三陸沖および日本海の深海性底生魚類を収集した。採集されたノロゲンゲの太平洋集団の遺伝的特性をミトコンドリアDNAの塩基配列の基づき解析し、オホーツク集団と共通する特徴を持つが、遺伝的多様性がより高い事を明らかにした。日本海の深海性底生魚類優占種であるノロゲンゲとコブシカジカの耳石のストロンチウム・カルシウム比(St/Cr)を、EPMAを用いて核から耳石縁辺に向かって測定したところ、ノロゲンゲでは値の急激な変化がみられないのに対して、コブシカジカでは核付近でSt/Crの急激な上昇がみられた。ノロゲンゲの耳石縁辺部のSt/Crの値が採集場所の水温と有意に正相関することやコブシカジカと近縁であるが、個体発生的鉛直移動をしないことが知られているニュウドウカジカではこの様な現象がみられなかったことから、コブシカジカのSt/Crの上昇は、発生初期を水温の高い海洋表層付近で過ごすためと考えられた。耳石分析により示されたノロゲンゲとコブシカジカの異なる生活史様式は、両者の遺伝的集団構造の違い(ノロゲンゲの日本海集団が他海域の集団から遺伝的に分化しているのに対してコブシカジカでは分化が見られない)が稚仔魚期に浅い海峡を通過できるか否かによるという研究代表者らの仮説を支持するものである。NanoSIMSを用いた精密元素マソピングによりコブシカジカの鉛直移動は受精卵の段階ではなく、孵化後に起こることが示唆された。
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