研究概要 |
金属タンパク質は生体内で重要な働きをしている。酵素の約半数は活性発現に金属イオンを利用しており、その他の多くのタンパク質においても機能獲得に金属イオンは必要不可欠である。本研究では、生理的条件下における酵素タンパク質の金属イオンの配位特性を質量分析により正確に調べる方法、並びに、100kDaを超える高分子タンパク質複合体の測定法を確立する目的で、以下の2つの技術要素を検討した。 1) エレクトロスプレーイオン化において生成したイオンを、細孔を通して真空へ導入する際には、細孔の真空側に超音速ジェットが生じる。超音速ジェット中では、バックグラウンドガス(窒素)と試料イオンなどは、ほぼ等速に加速される。質量の大きな高分子複合体のイオンは、結果として高い運動エネルギーを獲得するため、バックグラウンドガスとの衝突により解裂が起きてしまう。これを防ぐために、本研究では、細孔の径を0.4mm→0.5mmに広げることで細孔の真空側の真空度を落とし(→スキマー1を試作)、イオンを十分に減速することを検討した。その結果、分子量50k Daのタンパク質のホモダイマー(100k Da)をほぼ分解することなく測定することに成功した。 2) タンパク質をネイティブ状態で測定するには溶媒として水系を用いる必要があるが、一般に、エレクトロスプレーは不安定になる。安定なエレクトロスプレーを得るために、ガラス製のキャピラリーの先端内径が5, 10, 15, 30μmのものに対して、流速とキャピラリー電圧(1200~1800V)を変えながら種々測定を試みた。その結果、先端径30μm、流速:0.2~0.3μL/分で比較的安定したイオンを得ることができた。また、高分子複合体イオンの安定性と溶媒のイオン強度との関係も検討する必要があることが分かった。当初予定していた樹脂製のキャピラリーは、溶媒への高電圧の印加のみではキャピラリー先端での電圧を安定して保持できないため、改良が必要であることが分かった。
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