タンパク質の金属イオンに対する配位特性(種類と化学量論)を水中ネイティブ状態で質量分析により調べる方法を確立した。この方法を用いて、長期透析患者の合併症である透析アミロイドーシスの原因蛋白質であるβ2-ミクログロブリン(β2m)の2価金属イオンに対する配位特性を調べた。β2mのアミロイド繊維形成機構の詳細は未だ不明であるが、凝集の初期段階のオリゴマー形成時に開始因子としてCu2+イオンが介在している可能性が報告されている。一方、β2mは生理的条件下(温度、pH、濃度)で脱アミド化/異性化がおこり、Asn17とAsn42の2箇所において、それぞれ33、347日の半減期で進むことを明らかにした。さらに、脱アミド化により生じたAsp17の45%、Asp42の97%がisoAspに異性化することも見出した。脱アミド化によりAsnがAspに変換され分子全体として負イオンが増加するが、それと同時に、isoAspへの異性化を伴うため、蛋白質の高次構造にも影響を与えるものと考えられる。 本研究では、Asn17とAsn42の2箇所において脱アミド/異性化したβ2mとCu2+イオンとの相互作用をnanoESI-MSにより調べた。その結果、脱アミド化/異性化したβ2mは、ネイティブβ2mよりもCu2+イオンの結合性が増加するという新たな知見を得た。このことから、脱アミド化/異性化による構造変化がCu2+イオンとの結合能を増大したものと考えられた。透析アミロイドーシスの発症が数年を要することを考えると、脱アミド化/異性化のような半減期の長い反応とそれに伴うCu2+イオンとの特異的な結合が、β2mの凝集の初期段階における原因の一つになっているものと考えられ、また、長期透析患者のアミロイドーシス発症の時間軸との関連も強く示唆する結果といえる。
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