研究概要 |
ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)には10種のアイソザイムが存在する.それらの生理機能はこれまで殆ど不明だったが,最近申請者らは,DGKのα(腫瘍壊死因子α~NF-κB),δ(グルコース(Glc)~インスリン受容体),η(上皮増殖因子受容体~Raf~MEK~ERK)アイソザイムが,それぞれ重要なホルモン・サイトカイン受容体シグナル伝達系を決定的に制御し,難治病態形成において重要な役割を担う可能性を示した.そこで更に進んで,これらのDGKアイソザイムが制御するシグナル伝達機構の詳細と個体レベルでの病態生理機能を明らかにすることを計画した.この内,DGKδの動態に関して以下の興味ある知見が得られた. DGKδ1は,HEK293細胞において未刺激状態では主に細胞質中に局在したが,Glc(25mM)刺激細胞では1細胞膜へ移行した.その移行は5分で極大となり,刺激後30分以上ではDGKδ1が細胞質中に再局在すること1から,一過性であることが分かった.この移行の経時変化は,以前L6筋芽細胞で明らかになったGlc刺激時のDGKδ1活性の経時変化(5分で極大)と類似している.一方,DGKδ1のsterile a motif(SAM)欠損変異体は無刺激でも細胞膜へ移行した. DGKδ1はGlc飢餓時にリン酸化チロシン含有タンパク質と相互作用することが強く示唆された.この相互作用はSAM欠損変異体で増強した.今回検出されたDGKδ1と相互作用するリン酸化チロシン含有タンパク質により,DGKδ1の動態が制御される可能性,あるいはDGKδ1がこれらを介して下流の刺激伝達系を制御している可能性がある. 興味深いことに,DGKδ1が一次元のポリマーではなく二次元のシート状のポリマーを形成することが明らかになった.従って,DGKδ1は複雑で巨大な複合体を形成している可能性がある.
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