研究概要 |
昨年度の研究で、VCAM-1の発現が消失したSV-T2細胞(癌細胞)にVCAM-1遺伝子を導入すると、細胞の増殖制御に関与するRas-MAPK経路のc-Raf,ERK1,2のリン酸化が抑制、細胞骨格の再編成に関わるPI3K/Akt経路のPTENが活性化されPDK1,Akt,mTORが抑制され、さらにその下流のp70S6KやSTAT3が抑制された。一方、インテグリンを介して接着シグナルを伝達するFAKのリン酸化は変化せず、細胞の増殖分化を促進するPKCのリン酸化(活性化)や細胞周期を制御するGSK3βのリン酸化が抑制(活性化)されていた。以上の結果から、VCAM-1を発現したSV-T2細胞を軟寒天培地で培養するとPI3K/Akt経路、STAT3経路、MAPK経路が阻害され、癌細胞の性質である足場非依存的な細胞増殖能が抑制される一方、自身が癌細胞であることから細胞の増殖を促進しようと、PKCやGSK3βが活性化される(空回りする)ことが判明した。即ち、VCAM-1の細胞膜への発現も、細胞の増殖を制御する一因子であることが判明した。 VCAM-1の細胞質領域にはリン酸化部位がないので、VCAM-1が直接情報を伝達することはできない。このことから、VCAM-1は何らかの細胞内のアダプター分子と相互作用をすることで、シグナル伝達を制御していることが推測される。細胞膜分子と細胞内骨格を結びつけるアダプター分子としてEzrin,Radixin,Moesin(ERMタンパク質)が知られている。密度依存的な細胞の増殖が抑制されたBalb3T3細胞から細胞膜を調製し、タンパク質を可溶化後抗VCAM-1抗体とDynabeads Protein Gを用いて免疫沈降を行ない、VCAM-1と結合している分子をウエスタンブロット法で解析したが、ERMタンパク質を検出することはできなかった。
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