研究課題
交付申請書に記載した3課題のうち、「シグナル伝達に必要なDraper内のTyr残基の決定」はほぼ結論に達したが、「変性神経軸索貧食におけるDraperリガンドの同定」と「大腸菌貧食におけるDraperリガンドの同定」についてはほとんど進展が見られなかった。一方、アポトーシス細胞貧食における新たなDraperリガンドの存在が判明した。1.アポトーシス細胞貧食に必要なDraper内のTyr残基の決定Draperリガンドとして最初に見いだされたPretaporterはDraper分子内のTyr残基のリン酸化を導く。Draperの細胞内領域には、Asn-Pro-X-TyrとTyr-X-X-Leu(Xは任意アミノ酸)という配列内にリン酸化を受ける可能性のあるTyr残基が2つ存在する。そこで、これらのTyrをPheに置換した変異型DraperをコードするDNAを、Draper欠損ショウジョウバエに導入して貧食の回復程度を調べるとともに、ショウジョウバエ培養細胞株に導入してPretaporter添加時のTyrリン酸化を調べた。その結果、Asn-Pro-X-Tyr配列中のTyr残基が重要であることを示す結果が得られた。2.アポトーシス細胞貧食における新たなDraerリガンドとしてのCaBP1の発見Pretaporterが見いだされた際にDraper結合タンパク質がもう一つ存在ことがわかっていた。質量分析で構造を決定すると小胞体タンパク質CaBP1であった。Draper依存のアポトーシス細胞貧食へのCaBP1の関与を調べると、CaBP1はアポトーシス時に細胞外に放出され、アポトーシス細胞と食細胞とを橋渡しして貧食効率を高めることがわかった。3.アポトーシス細胞貧食における新たなDraerリガンドとしてのボスファチジルセリン(PS)の解析Draperの線虫オルソログであるCED-1がPS結合性を持つことが、研究代表者によって見いだされていた。DraperとCED-1のアミノ酸配列は類似性が高いためDraperのPSへの結合を調べると、Draperは確かにPSに結合した。さらに、ショウジョウバエでPS結合タンパク質を発現させるとアポトーシス細胞貧食の程度が低下した。以上より、DraperがPSをリガンドとしてアポトーシス細胞を貧食する可能性が生まれた。
2: おおむね順調に進展している
本課題の当初に計画した複数の研究について、大きく進展した部分と、ほとんど進んでいない部分とがある。その一方で、研究の進行状況の変化により、新たに計画に加わって進展した部分も出てきた。これらを総合すると、「おおむね順調に進展している」が適切な評価と考えられる。
平成24年度は本研究課題の最終年度にあたるため、課題全体を総括することをめざす。そこで、当初に実施する予定であった「変性神経軸索貧食におけるDraperリガンドの同定」と「大腸菌貧食におけるDraperリガンドの同定」を保留とし、23年度に進展が見られた「アポトーシス細胞食食に必要なDraper内のTyr残基の決定」と「アポトーシス細胞貧食における新たなDraperリガンドとしてのボスファチジルセリンの解析」を完了させることに集中する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (12件)
J. Biol. Chem
巻: 287 ページ: 3138-3146
DOI:10.1074/jbc.M111.277921
Journal of Biological Chemistry
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10.1074/jbc.M110.204503
実験医学別冊細胞死実験プロトコール
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