研究課題/領域番号 |
22370054
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
花田 賢太郎 国立感染症研究所, 細胞化学部, 部長 (30192701)
|
キーワード | 脂質輸送 / セラミド / 小胞体 / ゴルジ体 / スフィンゴミエリン / クラミジア |
研究概要 |
脂質が異なるオルガネラ間を移動する際にどのようなメカニズムで運ばれているのか、そして脂質輸送はどのようなメカニズムで制御されているのかは、ほとんど未解明である。我々は、小胞体で合成されたセラミドをゴルジ体へと輸送する蛋白質・CERTを発見した。CERTの解析から、セラミドの小胞体-ゴルジ体間輸送は、両オルガネラ膜が接触した部位において高効率に行われていると示唆されているが、小胞体-ゴルジ体膜接触部位を構成する因子は未解明である。本研究では、CERTの機能を制御するメカニズムを明らかにするとともに、CERTが膜接触部位で機能する仮説を検証することを目的としている。本年度は、CERTの特定部位のリン酸化によって、CERTと小胞体膜タンパク質VAPとの相互作用が顕著に増強することを見出した。さらに、そのことがCERTを介するセラミドの小胞体-ゴルジ体間輸送を上昇させることも見出した。我々は、CERTの他の部位のリン酸化でVAP結合能以外の機能が負に制御されることもすでに報告している。これらの結果から、CERTがリン酸化によって複雑な制御を受けていることが明らかになった。また、海外との共同研究から、当初の計画外の成果をあげることもできた。偏性寄生細菌であるクラミジア・トラコマチスは先進諸国における性感染症の最大起因病原体となっている。この菌は宿主細胞の様々な脂質を利用して増殖することが知られていたがそのメカニズムは未知であった。我々は、クラミジア・トラコマチスの増殖には宿主細胞のCERTが重要であることを見出し、CERTは小胞体のセラミドを膜接触部位を介してクラミジア寄生胞に転移させて寄生胞の成熟化に寄与することを示唆する結果も示した。この発見は、膜脂質が膜接触部位において他の膜構造に転移することを支持する新たな証拠である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画はほぼ計画通りに進展しているが、まだ、成果を論文発表するに至っていない。一方、当該年度の研究実績に記載したように当初の計画していなかったクラミジア菌の細胞内寄生におけるCERTの重要性を発見し、論文発表を行い、当該雑誌のトピックス記事としても紹介された。これらを総合することで、脂質輸送と膜接触部位という細胞生物学上のより大きな課題に対する独創的なアプローチ法に発展すると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
CERTのリン酸化とVAPとの相互作用に関して、論文化するための実験を追加する。CERTがゴルジ体と相互作用するための構造学的解析を国内の他グループとの共同研究で進めており、こちらも論文化するための実験を追加する。さらに、CERTがオリゴマーを形成することを予備的に観察しているので、オリゴマー形成に必要な領域の同定やオリゴマー化の生理的意義を解析する。これらを解析する手段は基本的にすでに構築している。思いがけず見出したクラミジア菌とCERTとの関わりをさらに発展させるには、研究費・人力・材料といった研究基盤がまだ不足しており、来年度中でのさらなる進展は難しい。
|