脂質が異なるオルガネラ間を移動する際にどのようなメカニズムで運ばれているのか、そして脂質輸送はどのようなメカニズムで制御されているのかは、ほとんど未解明である。我々は、小胞体で合成されたセラミドをゴルジ体へと輸送するタンパク質・CERTを発見し、CERTを介したセラミドの小胞体-ゴルジ体間輸送は両オルガネラ膜が接触した部位において高効率に行われていると提唱するに至っている。本研究課題では、CERT機能を制御するメカニズムを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、CERTの315番目のアミノ酸であるセリン残基S315のリン酸化によって、CERTと小胞体膜タンパク質VAPとの相互作用が顕著に増強され、小胞体-ゴルジ体間セラミド輸送も高進することを明らかにした。本年度は、スフィンゴ脂質生合成の阻害した際にS315のリン酸化レベルが高まることを見出し、当該部位のリン酸化が細胞内の膜スフィンゴ脂質量を適切な範囲に調整することに寄与していると示唆した。これらの成果をまとめて英文原著論文発表した。一方で、近3倍体の核型を示すHeLa細胞において、ゲノム編集技術を用いて3つのCERT遺伝子座を全て破壊した変異株、さらにはCERT遺伝子とグルコシルセラミド合成酵素遺伝子の両方を破壊した変異株などの作製に成功し、英文原著論文として発表した。これら実験材料は今後さまざまな研究に役立つと期待される。また、スフィンゴミエリンとCERTの共進化に関する考察を広く論文調査をしながら行い、英文総説論文として発表した。
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