大腸菌は通常は桿菌と呼ばれる形態をしている。このような形態を作るためには、細胞壁、特にペプチドグリカンという堅い構造が正しく合成されなければならない。 私たちは大腸菌の桿菌形態の維持に必要なRodZタンパク質を発見し、これまでその機能を研究を行なってきた。rodZ遺伝子を破壊した株は生育できるもののその生育速度は著しく低下する。また、その形態は球形になる。私たちは、生育の遅いこのrodZ欠損株から、自然に元の生育に回復した株を29株単離した。これらは、生育が回復しただけではなく、形態も元の桿菌に戻っていた。rodZ遺伝子は完全に破壊されていることから、rodZ遺伝子の機能を補うような突然変異が二次的にいずれかの遺伝子に起こったものと予想された。これは抑圧変異とよばれ、rodZ遺伝子の機能と関連する遺伝子を知る手がかりとなる。そこで、次世代シークエンサーを用いて、これら抑制変異株すべての全ゲノムの配列を解読した。その結果、29株の抑制変異部位を決定することができた。 抑制変異は、それぞれmreB遺伝子、mrdA遺伝子、mrdB遺伝子に生じていた。これらはバクテリアの伸長に必要な遺伝子である。特に、抑圧変異株のうち20株はmreB遺伝子に変異が起っていた。さらに、それら突然変異はMreBタンパク質の一つの領域に集中していた。これら変異により、MreBタンパク質は性質を変え、RodZタンパク質がなくても、大腸菌は伸長できるようになったと考えられる。また、mrdA遺伝子、mrdB遺伝子の変異によってもMreBタンパク質の性質が変えられていることが分かった。通常では、RodZはこれら遺伝子産物、特ににMreBタンパク質に働きかけ、大腸菌の形態を正しく保つように指令を伝えているものと考えられる。
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