ゴルジ体は分泌タンパク質の修飾を行う細胞小器官であり、その細胞内の存在量は細胞の需要に応じて厳密に制御されている。研究代表者はこのゴルジ体の量的調節機構であるゴルジ体ストレス応答の分子機構の研究を行っている。予備的な研究から、ゴルジ体ストレス応答によって転写が誘導される標的遺伝子(ゴルジ体の糖鎖修飾酵素や小胞輸送因子、構造形成因子をコードする遺伝子)を同定し、転写誘導を制御する転写制御配列GASE(Golgi apparatus stress response element)を同定するとともにGASEに結合する転写因子TFE3とMLXを単離した。TFE3を過剰発現するとGASEからの転写が活性化され、TFE3の発現を抑制するとゴルジ体ストレス依存的な転写誘導が見られなくなることから、TFE3はゴルジ体ストレス応答を制御する主要な転写因子であると考えられる。 本年度は、ゴルジ体ストレスによるTFE3の活性化機構を解析した。TFE3を特異的に認識する抗体を作製して調べたところ、TFE3は平常時には高度にリン酸化されて細胞質に係留されているが、ゴルジ体ストレス時には脱リン酸化されて核へ移行し、ゴルジ体関連遺伝子の転写を誘導していることがわかった。現在、どのようなリン酸化酵素や脱リン酸化酵素が関与しているのか調べている。また、ゴルジ体ストレスの分子的実体を調べるために様々な方法でゴルジ体に負荷を与えてゴルジ体ストレス応答が誘導されるかどうか調べたところ、(1)本来酸性であるゴルジ体を中性化してゴルジ体の機能を喪失させる、(2)ゴルジ体からの小胞輸送を阻害する、(3)ゴルジ体を断片化してその機能を喪失させるなどの処理によってゴルジ体ストレス応答(TFE3の脱リン酸化)が誘導されることがわかった。現在、これらの処理によるゴルジ体ストレス誘導の分子機構を解析している。
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