細胞小器官の量的調節機構は細胞生物学の重要な研究課題である。研究代表者は小胞体の量的調節機構である小胞体ストレス応答の機構を明らかにし、現在ゴルジ体の量的調節機構であるゴルジ体ストレス応答の機構を研究している。これまでの研究から、ゴルジ体ストレス応答を制御する転写制御配列GASEとGASEに結合してゴルジ体の機能を担う遺伝子の転写を活性化する転写因子TFE3を同定した。平常時にはTFE3はリン酸化されて細胞質に留められているが、ゴルジ体ストレス時(ゴルジ体の機能が不足した状態)には脱リン酸化されて核へ移行することも見出した。 本研究課題の前年度までの解析によって、108番目のセリン残基(S108)が平常時にリン酸化されることでTFE3が細胞質に繋留されていることを明らかしにした。またゴルジ体での糖鎖修飾阻害剤を用いてゴルジ体ストレスの分子的実体を解析したところ、ゴルジ体での糖鎖修飾不全がゴルジ体ストレスを惹起していることを見出した。 本年度は、TFE3をリン酸化するキナーゼをsiRNAライブラリーを用いて検索した。その結果、CKIαの発現を低下させるとTFE3が脱リン酸化されて核へ移行した。興味深いことに、S108付近のアミノ酸配列は、CKIαの基質のコンセンサス配列と一致していた。これらのことは、CKIαがTFE3のリン酸化酵素であることを示唆している。また、ゴルジ体でのシアル酸修飾が不全の変異細胞Lec2でもTFE3の脱リン酸化や核移行が見られた。このことは、ゴルジ体での糖鎖修飾の不全がゴルジ体ストレスの惹起に関与していることを遺伝的に示すものである。 今後は、TFE3を脱リン酸化するフォスファターゼを同定するとともに、ゴルジ体ストレスを感知するセンサー分子を同定し、ストレス感知機構を明らかにする予定である。
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