研究概要 |
近年我々は、血球で機能するADAMプロテアーゼを同定、生きたゼブラフィッシュ胚を用いた役割と機能の解明に焦点を絞った研究を行ってきた。その結果、赤血球の循環開始には、心臓の拍動という既知の受動的プロセスに加えて、ADAM8プロテアーゼを発現する血球が血管との接着を解除するという能動的プロセスが必要であることがわかってきた。本研究はその発見を発展させ、血液循環開始機構をADAM8を中心とする血球血管の相互作用・接着制御の観点から解明し、能動的プロセスとしての循環開始機構の存在を証明する。さらにADAM8に依存したプロテオリシスが、心臓の拍動や血管形成とどのようにリンクしているか、その時間的空間的制御を生きた個体で捉えることを目指す。今年度は、血液循環開始にADAM8を必要とする細胞を検討した。一般に、プロテアーゼ変異型ADAMタンパク質の過剰発現は、発現細胞にドミナントネガティブ効果をもたらす。その性質を利用して、コントロール胚にプロテアーゼ変異型ADAMをGATA-1プロモーター制御下で発現させることにより、赤芽球細胞特異的なADAM8阻害を行ったところ、ドミナントネガティブフォームを発現する赤芽球は血管に接着して循環をスタートすることができなかった。このことから、ADAM8は、赤芽球で必要とされることと同時に、プロテアーゼ活性が必要であることを示すことができ、血液細胞は自ら、血管からの接着を解除することにより、循環を開始する、という血液循環の新しいメカニズムを提唱した(lida et al., Current Biol., in press)。次に、血球と血管の接着制御をモニターするため、赤芽球のF-アクチンをモニターするゼブラフィッシュ系統を作製し、循環開始時の赤芽球のfilopodiaの動きをモニターする実験系を構築した。
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