インビトロで色素パターン形成を行うために必要な以下のような知見を得た。 1. 色素細胞の精製プロトコルをさらに改良し、インビトロにおける細胞の活動をよりはっきりと観察できるようになった。 2. (1)の手法により、模様変異のミュータントの間での、インビトロの動態の違いが、明らかになっている。例えば、jaguar変異は黒色素細胞が、黄色細胞の突起からの刺激を受けられない。またleopardは、逆に黄色細胞が、黒細胞からの刺激を受けられない事が明らかになっている。また、新たに調べたdali変異では、黒色素細胞が、黄色との接触により直ちにアポトーシスを起こすことが解った。 3. 黄色細胞と黒細胞の接触点にギャップジャンクションができることが、電子顕微鏡で観察できた。ギャップジャンクションを作る遺伝子は、模様形成変異の一つであるleopard遺伝子である。このことは、樹状突起の先端でのシグナル伝達が、模様形成のキーになっていることを示す。 4. 一方、いくつかの模様突然変異では、インビトロの動態に変化が見られないことも明らかになっている。特に長距離の相互作用を担うとみられているnotch-delta遺伝子に変異のある色素細胞を用いた場合、野生型と同じ動態しか得られていない。 5. 長距離の相互作用に関しては、黒細胞が伸ばしている長い樹状突起が関与している可能性が高く、これをどのようにインビトロの系で再現するかが今後のキーとなる。 以上の知見から、近距離効果のみで作れることが理論的に可能な、黄色と黒色細胞の分離状態に関しては、インビトロで再現できる可能性が高まった。ストライプ、斑点などの明瞭なパターンに関しては、細胞をもっと長期で培養できる条件を模索する必要がある。
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