本研究では、イネにおける葉緑体ゲノムへの遺伝子導入を可能にするためのツールとして葉緑体が巨大化したイネ突然変異体に着目しており、本年度は、得られた変異体の解析を進めた。 (1)イネ巨大葉緑体変異体gicの単離と解析 温室で生育させた個体ごとに第3葉からプロトプラストを単離して葉緑体を観察する方法を確立し、約2000個体のスクリーニングにより、葉緑体が肥大化した変異系統(giant chloroplast ; gic)を得た。葉肉細胞における葉緑体のサイズを確認するために、gicのイネ葉より切片を作成し、レーザー共焦点顕微鏡による観察を行った。切片作製には凍結切片法あるいは振動刃ミクロトームなどを使用したが、良好な観察像を得ることができなかったので、来年度以降も継続して研究を行う予定である。さらに今年度はgicの日本晴への戻し交雑を行って、今後の実験のための材料を得た。 (2)イネ巨大葉緑体変異体の原因遺伝子同定 gicとKasarathとの交雑後代F2の種子が今年度得られたので、これらの材料を用いてマップベースによる原因遺伝子の単離を進めた。プロトプラストによる表現型の解析がうまくいかず、マッピングに用いる個体が17個体しか得られなかったため、精密なマップを行うことができなかったが、4番染色体の末端に弱い連鎖が観察されたので、来年度以降、遺伝子単離のためのより詳細なマッピングを進める。 (3)葉緑体形質転換用コンストラクトの作製 タバコで使われている既存のスペクチノマイシン耐性遺伝子カセットを、イネ葉緑体ゲノムライブラリー由来のプラスミドクローン(Baml)へ挿入した形質転換用のコンストラクトを作製することができたので、来年度以降、このコンストラクトとgicを用いた形質転換の実験をパーティクルガンを用いて進める。
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