本研究では環境に安全な遺伝子導入法としてイネ葉緑体ゲノムへの形質転換に着目し、これを可能にするための有用リソースを活用した技術開発への基盤研究を行った。イネでは葉緑体形質転換が困難である1つの原因として葉緑体がきわめて小さいことが考えられるので、本研究では葉緑体サイズが大きくなる変異を得て活用するための研究を行った。 今年度は、①イネ巨大葉緑体変異体<i>giant chloroplast</i> (<I>gic</I>)の整備と原因遺伝子の同定、②<I>gic</I>を用いた葉緑体形質転換の研究を進めた。①の<I>gic</I>変異体の解析では、24年度までに第4染色体下腕に変異をマップしたので、今年度はインタクトな葉を用いた葉緑体観察法を開発してマッピング集団を拡大し、F2集団で110個体のgic形質を示す個体を選抜して詳細なマッピングを進めた。その結果、ゲノム領域を582 kbにまで絞り込んだ。さらにこの領域に存在する123遺伝子のうち葉緑体輸送シグナルを持つと予想されるタンパク質、既知のシロイヌナズナ関連遺伝子との相同性などから、シロイヌナズナPARC6遺伝子と相同性を持つ遺伝子Os4g0675800を見出した。この遺伝子の配列を決定して日本晴と比較すると、アミノ酸置換を生じる1塩基置換が検出された。現在、この遺伝子のcDNAをクローニングしており、クローンが得られた後、<I>gic</I>変異体でこの遺伝子を発現させる相補実験を行い、原因遺伝子であることを証明する。圃場で栽培すると、<I>gic</I>変異体は野生型に比べ若干生育が悪く、シロイヌナズナとは異なり、イネでは葉緑体分裂が桿長などに影響することが示唆された。<I>gic</I>を用いた葉緑体への遺伝子導入は昨年度から継続して行っているが、ストレプトマイシン耐性を示す形質転換体は得ることが出来なかった。
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