研究概要 |
ナシは自家不和合性を有するため他品種花粉の受粉が必須であり、着果し過ぎた幼果は摘果する必要がある。これらは手作業で行われることから、ナシ栽培の労働単価が極めて低い原因となっている。本研究は、ナシの不和合性を雌側で制御しているRNaseを重金属塩処理によって不活化し、無受粉・無摘果栽培体系の確立を目指したものである。 ナシ花柱のRNase活性は1mM以上の硫酸銅によって1/3以下まで不活化され、‘幸水’ナシの蕾(開花8~6日前)への1~2mMの溶液散布によって、高い着果率が得られた。着果誘起するのは銅や鉄イオンであり、銅イオンを含むボルドー散布でも同様な効果が確認された。従って、薬散・受粉・摘果に要する時間は、従来の1/3以下となることが明らかとなった。但し、得られた果実は小さなものが多かったため、満開1ヶ月後に果梗にジベレリン処理を行った。その結果、受粉区と同程度の果実肥大と収量が得られて熟期も促進され、従来の栽培法に比べて1.5倍の収益増になるとの試算を得た。 Cu++などの重金属イオンが、RNase活性を抑制する機構は不明である。Cu++はRNase A,SおよびT1を、Fe++はRNase A,S,BおよびT1を抑制することが確認された。また、Cu++と花柱タンパク質は分子振るいカラムで容易に分離されること、Cu++と花柱タンパク質混合溶液から硫安沈殿によって単離したタンパク質のRNase活性が回復することから、金属イオンはRNaseと強固に結合することなく、溶液中でその三次構造(水素結合やスタッキング構造)や糖鎖に作用しているものと推察された。 花柱内の花粉管伸長調査により、重金属イオンは不和合性打破ではなく単為結果により着果誘発することが明らかとなった。この着果誘発に、ACC合成酵素や酸化酵素などのエチレン生成系が関与する可能性は低いと考えられた。
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