研究概要 |
2010年と比べて2011年の障害果発生率は,水浸状果肉褐変果(水浸状果)ではほぼ同程度であったが,赤肉果では低く,両者を併発した合併症果では '川中島白桃' を除いて高かった. 水浸状果は,いずれの品種でも果肉硬度が低い一方,糖含量が多い傾向であり,特にスクロースとソルビトール含量が多かった.また,香気成分,特にγ-ドデカノラクトンの含量が多かった.このように,水浸状果発生と糖蓄積との関係が示唆されたので, '白鳳' の果実発育第3期初めに側枝に環状剥皮処理を行い,障害発生率を調査するとともに^<13>CO_2を取り込ませ,^<13>C光合成産物の転流・分配をみた.その結果,環状剥皮区では水浸状果の発生が多く,果肉硬度が低い一方,糖度が高かった.スクロースとソルビトール含量は処理7日後以降収穫時まで多く推移した.果肉の^<13>C濃度は,環状剥皮区,対照区ともに処理24時間後以降増加し,特に環状剥皮区での増加が大きく,処理120時間後の果肉への分配率は環状剥皮区が対照区よりも高かった.これらのことから,水浸状果の発生には糖蓄積が関係していると推察された.正常果と障害果では,ペクチンと香気成分の含量に差がみられたことから肉質や風味との関連が推察されたが,この点についてはさらに詳細な検討が必要である. 果実成熟および果肉障害発生と温度およびエテホン処理との関係をみたところ,果実袋内の温度が35℃以上ではエチセン生成が抑制される一方,20~25℃の温度条件では成熟が早まると考えられた.エテホン処理により果実品質が低下することなくエチレン生成が誘導されて成熟が早まった.しかし,障害発生との関係は明確でなかった.
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今後の研究の推進方策 |
水浸状果の特徴である異臭には果肉に蓄積するエタノールが関係しており,特にγ-ドデカノラクトンの影響が大きいことを明らかにしたが,その蓄積過程の解明には至っておらず,今後のさらなる研究が必要である. 水浸状果の発生には光合成産物の転流・分配が深く関係していることを明らかにしたが,どのような過程及びメカニズムで水浸状果が発生するのかを明らかにするとともに,防止策の確立に向けた取り組みを行う必要がある.
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