研究課題/領域番号 |
22380032
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
比留間 潔 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (70374816)
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研究分担者 |
冨田 秀一郎 農業生物資源研究所, 主任研究員 (30360457)
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キーワード | コミットメント / エクダイソン / 幼若ホルモン / 変態 / カイコ / Verson's gland / アラタ体 / 前胸腺 |
研究概要 |
コミットメントは分化に先だって起こる運命の方向付けであり、細胞レベルではall-or-noneで起こるというのが定説である。そこでカイコの各体節の表皮背面に一対ずつ存在して脱皮時に新しいクチクラの表面にセメント層を分泌する単一分泌細胞のVerson's glandを用いることにより、コミットメントの細胞レベルでの研究を行った。蛹コミットメントの指標となりうる遺伝子の探索を、幼虫期及び蛹期特異的に発現する遺伝子を複数見いだした。次いでこれらの遺伝子の発現を指標として、アッセイを行い、Verson's glandにおける蛹コミットメントは終齢1日から3日にかけて起こることを明らかにした。その移行期である2日目に幼虫特異的遺伝子と蛹特異的遺伝子の両者の遺伝子が同時に発現していることを見出したことから、細胞レベルでは蛹コミットメントがall-or-noneではなく、徐々に起こるということを強く示唆している。 verson's glandは脱皮前に肥大化し、脱皮時に内容物を分泌して縮小する。しかし、蛹への脱皮時においては腹部第7-9体節のVerson's glandは脱皮直前には消失した。核形態とDNA断片化を観察したところ、細胞死に関わる主要なアポトーシス経路であるカスパーゼ経路は関与していないことを明らかにした。現在、終齢脱皮後に細胞死を起こさない腹部第1体節のVerson's glandと細胞死を起こす第7体節のVerson's glandを使用して、体節特異的に発現する遺伝子の特定及び細胞死のコミットメントの検証を試みている。 カイコのエクダイソン応答性転写因子の1つであるBHR4は、エクダイソンの血中濃度上昇に反応して発現を開始するが、脱皮前にその発現は停止する。しかしBHR4はエクダイソン合成を促進することをすでに見出している。これはエクダイソンの代謝を抑制するのではなく、その合成そのものの促進であることを明らかにし、少なくとも4種類のエクダイソン合成系の酵素発現の促進によっていることを明らかにした。これらの結果から、脱皮前にBHR4の発現が正常に停止することは、前胸腺におけるエクダイソン合成停止に重要である事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
DNAマイクロアッセイで得られた大量の遺伝子の解析が計画以上に早く進み、コミットメントの研究が滞りなく進められた。また予備実験を十分に行っていたために、BHR4によるエクダイソン合成促進の機構についてもほぼ論文が書けるまでの結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
単一細胞でのコミットメントの機構を当初の計画通り確立する。すなわち定説のようにanll-or-noneではなく、徐々に起こる可能性の高いことを示せたので、これを確立する。またverson's glandでの体節特異的な遺伝子の候補者を見出す。BRR4とエクダイソンとの関係は計画よりかなり速く進んだので、論文執筆に取り掛かる。
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