昆虫ウイルスの一種であるバキュロウイルスは、100kbp以上の2本鎖DNAをゲノムとして持つ大型のDNAウイルスであり、高度な宿主制御を行うことが知られている。バキュロウイルスゲノムには100個以上のタンパク質コード遺伝子が存在するが、一部のグループが提唱しているmicroRNAをのぞいて、非コードRNAの存在は知られていない。申請者は、昨年度までに、ウイルス感染培養細胞のトランスクリプトーム解析によって、既報のORFをコードしない長鎖非コードRNAがウイルスゲノムから転写されていることをインフォマティクス解析、およびノザンブロティングによって明らかにしている。今年度は、その中で発現量が多い転写物に関して、プロモーターノックアウトウイルスの作成を行った。現在までに13種類の変異ウイルスの作成に成功している。それらのほとんどが、野生株と比較して、ウイルス増殖に異常が認められた。ある変異体では出芽ウイルス量が1/200程度に低下していた。また、カイコ個体での感染において顕著な致死遅延が認められたものや、経口感染力が低下した変異体も見いだされた。以上のことから、バキュロウイルスのゲノム中に存在する長鎖非コードRNAは単なる転写産物ではなく、「機能性」RNAとして存在していることが判明した。今後は、これら長鎖非コードRNAの作用機序を調査するとともに、他のバキュロウイルスにおける保存性を調査することを計画している。
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