研究課題/領域番号 |
22380034
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩見 雅史 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (40193768)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 昆虫変態 / インスリン / エクジソン / カイコガ / 血糖調節 / 個体発育 / 脳 / 神経 |
研究概要 |
本研究では、カイコガをモデルに、脊椎・無脊椎動物共通ホルモンであるインスリン様ペプチド(ボンビキシン)をはじめ、発生に関わるホルモンの幼虫から蛹期までの作用を解析することにより、動物界に共通する個体全体の代謝、発育調節、生殖システムを探ることを目的とするものである。 24年度は、昨年度までの研究成果を論文としてまとめるとともに、引き続き、糖利用酵素の活性調節機構の研究をさらに進めた。昨年までの前終齢幼虫から終齢へ至る脱皮期や終齢幼虫から蛹への変態期での結果に、新規の結果を加え、以下の結論を導いた。①糖分解酵素の活性は発生に伴って変化する。すなわち、吐糸期には糖質消化酵素および膜型トレハラーゼの活性が低下する一方、中腸内トレハラーゼの活性は上昇する。②糖質消化酵素活性の低下と中腸内トレハラーゼの上昇は、体内エクジソン濃度の上昇により引き起こされる。③摂食期ではエクジソン濃度上昇が、摂食停止、吐糸行動、蛹化を起こすが、糖質消化酵素活性は高く維持される一方、吐糸期では蛹期以降に利用されない消化酵素の活性低下をもたらし、蛹期以降に利用される中腸内トレバラーゼの活性は上昇する。 上記と平行して、ボンビキシンが脳の神経分泌細胞で産生されていることから、脳内でどのように情報分子が処理されているかを探るため、活動している神経の同定と神経回路可視化を試みた。DNAマイクロアレイスクリーニングにより同定した初期応答遺伝子M8では、本能行動の神経活動後に発現量が増加しており、神経活動のマーカーとして有用であること、また胸部神経節においても神経活動のマーカーとして有用であることを確認した。さらに、同定済みの別の初期応答遺伝子のプロモーターを利用し、温度依存性イオンチャネルを用い、GAL4/UAS法を用いた熱遺伝学的手法により、任意の神経細胞の活動を人為的に操作できるカイコガを作出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昆虫の発育がエネルギー面でどのように制御され、既知のホルモンであるエクジソンや幼若ホルモンがどのように作用しているかについて、前終齢から蛹期までの糖利用酵素の活性調節モデルを提示できたことは一定の成果と判断している。さらに、活動している神経の同定と回路可視化が、同定した初期応答遺伝子の発現解析により可能となり、神経細胞の活動を人為誘導へ近づいたことも成果と判断している。しかし、プロボンビキシンCペプチドの作用検定系の確立にはまだ至っていないため、「(1) 当初の計画以上に進展している」ではなく「(2) おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、カイコガをモデルに、脊椎・無脊椎動物共通ホルモンであるインスリン様ペプチド(ボンビキシン)をはじめ、発生に関わるホルモンの幼虫から蛹期までの作用を解析を目指すと同時に、脳内でどのように情報分子が処理されているかを探るため、活動している神経の同定と神経回路可視化を行う。 1.糖利用酵素の活性調節機構について、さらに発育過程を追って、活性調節機構をホルモンや栄養状態との相互作用を念頭に解析する。 2.同定した初期応答遺伝子による神経細胞活動の人為誘導のため、プロモーターにさらに改変を加え、ショウジョウバエやカイコガを用いて遺伝子組換え生物を作出し、昆虫種を問わず神経活動のマーカーとして利用できることを目指す。 3.引き続き、プロボンビキシンCペプチドの作用検定系の確立を目指とともに、進捗状況によっては「Cペプチド作用検定系確立」の実施自体の再設定を含めて検討する。
|