研究課題/領域番号 |
22380038
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
下田 武志 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業総合研究センター・病害虫研究領域, 主任研究員 (20370512)
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研究分担者 |
釘宮 聡一 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 主任研究員 (10455264)
安部 洋 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 研究員 (90360479)
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キーワード | 昆虫 / 植物 / 行動 / 情報化学物質 / 植物防御応答 / 天敵 |
研究概要 |
害虫の食害を受けた多くの植物は揮発性の情報化学物質(SOSシグナル)を放出し、天敵昆虫を特異的に誘引する。一方、申請者らは、コナガに食害されたアブラナ科植物のSOSシグナルがナモグリバエを忌避させる現象を発見した。23年度では、アブラナ科植物由来のSOSシグナルに対するマメハモグリバエの反応を調査し、22年度成果である、忌避反応を引き起こす植物の誘導防衛物質の絞り込みを室内試験等によって進めた。 マメハモグリバエ成虫は、コナガの食害によってキャベツから放出される4成分[α-Pinene、Sabinene、(Z)-3-hexenyl acetate、n-Heptanal]のブレンドを忌避し、SOSシグナルに対する忌避反応はハモグリバエの複数種に共通することが明らかとなった。 次に、忌避反応の機能的意義については、害虫食害で誘導される植物の直接防御応答(ジャスモン酸がシグナル伝達物質として関与)が欠損しているシロイヌナズナcoi1-1変異株ではマメハモグリバエが忌避行動を示さず、次世代成虫も変異株から出現できるのに対し、直接防御応答が強く働くシロイヌナズナ野生株にはマメハモグリバエは忌避行動を示し、次世代成虫は出現しなかった。さらに、ジャスモン酸の制御下にある代表的な直接防御応答物質(カラシ油成分等)の生産に関わる各種変異株を用いた同様の試験を実施し、マメハモグリバエ成虫の忌避行動や幼虫の生存に悪影響を及ぼすシロイヌナズナの直接防御応答に関わる遺伝子や防御物質の絞り込みを進めた。 最後に、直接防御応答が強く働くはずの野生株についても、日照時間等の光条件の違いによってマメハモグリバエの次世代成虫が出現する場合があることを発見した。これは、環境ストレスに対する植物の防御応答がハモグリバエの発育生存に間接的に影響することを示しており、興味深い知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物由来SOSシグナルに対する忌避行動については、SOSの人工ブレンドを用い複数種のハモグリバエにおいてこれを実証した。忌避行動の意義については、モデル実験植物シロイヌナズナの変異株等を用いた試験により、害虫食害に対する植物の直接防御応答がハモグリバエ類の生存・発育に影響することを実証し、忌避行動との関連性が示唆された。以上の成果により、おおむね順調に研究が進呈していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
植物由来SOSシグナルに対する忌避行動については、4成分のブレンドに対する忌避を実証しており、24年度では単独成分への反応を調査する。忌避行動の意義については、植物の直接防御応答に対する忌避の可能性が示唆されたため、24年度はこの視点から主に研究を進め、ハモグリバエ類の生存・発育に影響を及ぼす植物由来の防御物質(カラシ油成分等)の絞り込みを進める。また、本研究の過程で、光条件等の環境ストレスに対する植物の防御応答がハモグリバエ類の生存・発育に間接的に影響するという興味深い現象を発見したため、メカニズム解明のための試験・分析等を研究計画に加え、どのような条件下(害虫食害・光ストレス等)にある植物に対してハモグリバエ類が忌避行動を示すかを検討する。
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