菌根菌が宿主の耐酸性獲得において果たす役割を明らかにするために、以下の実験を行った。 1.耐酸性菌根菌が植物の耐酸性獲得において果たす役割 先駆植物であるススキに酸性土壌および非酸性土壌から分離された菌根菌を接種し、強酸性(pH3.2)および弱酸性(pH5.4)の土壌において栽培したところ、pH5.2では菌根菌の接種の有無や菌根菌の種類に関わり無くススキは正常に生長したのに対し、pH3.2では酸性土壌由来の菌根菌を接種した場合のみ正常に生長した。このことは、菌根菌との共生により植物の耐酸性が向上すること、また、菌根菌の耐酸性が植物の耐酸性に重要な役割を果たすことを意味している。 2.菌根菌の耐酸性に関与する遺伝子の探索 菌糸において発現している遺伝子(mRNA)の網羅的解析(H21年度科研費により実施)により得られた情報の中から、菌根菌の耐酸性に関与すると推定される遺伝子の探索を行い、Mg輸送体などいくつかの候補を抽出した。今後は耐酸性の異なる菌株を様々な環境から分離し、これら遺伝子の発現最との関係を明らかにする予定である。 3.菌根菌が保持するウィルスと耐酸性との関係 本研究室で維持している4菌株において二重らせんRNA(dsRNA)ウィルスの探索を行ったところ、すべての株がdsRNAを保持していることがわかった。そのうち、特に存在量の多いdsRNAのゲノム構造を決定すると共に、このウィルスの脱落した(ウィルスフリー)株を取得し、その特性解析を行ったところ、ウィルスフリー株は保持株に比べて胞子形成能が2倍に増加することに加え、強酸性土壌におけるススキの生長をウィルス保持株に比べて有意に増進させることがわかった(論文投稿中)。今後はさらに他の菌株のウィルスについて、ゲノム構造およびウィルス感染による表現形質の変化を調査する予定である。
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