研究課題/領域番号 |
22380043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳澤 修一 東京大学, 生物生産工学研究センター, 准教授 (20222359)
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キーワード | 植物 / 硝酸シグナル / 遺伝子発現 / 転写制御 |
研究概要 |
これまでに、亜硝酸還元酵素遺伝子プロモーター中に見出した硝酸応答配列(NRE配列)に塩基配列特異的に結合するNBPと命名したシロイヌナズナ因子をクローン化して、NBPはその活性が翻訳後調節によって制御される転写因子であることを明らかにしていたことから、今年度は、NBPの硝酸シグナルに応答した翻訳後調節の仕組みを探るために硝酸シグナルに応答に関わるドメインの同定を試みた。まず、内在性のNBPの活性と区別して硝酸応答性を解析するアッセイ系として、バクテリアのDNA結合タンパク質タンパク質(LexA)との融合タンパク質を植物細胞内で発現させるためのベクターを構築し、これをLexA結合配列の制御下でGUS遺伝子を発現するように構築したレポーター遺伝子を持つ形質転換シロイヌナズナにアグロバクテリアを用いた形質転換により導入することによって解析を行なう系を確立した。このアッセイ系を用いた解析結果から、DNA結合ドメインはNBPタンパク質の中央付近に存在するが、このドメインよりもN末端側に転写促進ドメインと硝酸シグナル応答ドメインが存在することが明らかとなった。さらに、農業的に極めて重要な作物は単子葉植物であることから、単子葉植物でもNBPホモログが硝酸応答機構に関わっているかを調べた。トウモロコシを材料として解析を行なったところ、トウモロコシにはNBPホモログが複数個、存在しており、これらはトウモロコシの亜硝酸還元酵素遺伝子プロモーター上に存在するNRE配列に結合することによって、この遺伝子プロモーターを活性化できることが確認された。このことから、NBPを介した硝酸応答機構は植物界に広く存在する分子機構であることが推測された。また、トウモロコシのNBPホモログの詳細な解析によって、これらの中には、硝酸応答を示すものと示さないものが存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題申請時の目的は、農業的に重要な窒素の利用効率を規定している硝酸に応答した遺伝子発現の制御機構を、硝酸に応答した遺伝子発現を引き起こすのに必要十分なシロイヌナズナのシス配列(NRE)に結合する転写因子を同定することにより明らかにすること、また、類似の分子機構が植物種を超えて保存されているかについて、相同遺伝子の検索により検証することであった。NREに結合するシロイヌナズナ転写因子の同定に成功し、また、類似の分子機構が双子葉植物のシロイヌナズナと単子葉植物のトウモロコシに存在することを示したことにより、当初目的は達成されたと考える。加えて、この転写因子の活性が翻訳後制御によって制御されていることの発見は、硝酸応答型遺伝子発現の制御の分子メカニズムの理解に向けた、当初目的を超えた成果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果に基づき、NBPの翻訳後調節による活性化機構の解析を押し進めると同時、植物個体レベルでのNBPの機能の評価を行なう。トウモロコシのNBPには、硝酸応答を示すものと示さないものが存在することが示唆されたことから、シロイヌナズナに9つ存在するNBPの転写促進活性と硝酸応答性を確認することによりシロイヌナズナにも硝酸非応答性のNBPが存在するか検討する。もし、そのようなNBPが見出すことができた場合は、硝酸応答型のNBPと硝酸非応答型のNBP間で種々のキメラタンパク質を構築し、その転写促進活性と硝酸応答性を調べることによって転写促進ドメインと硝酸応答ドメインの特定を試みる。シロイヌナズナの9つのNBPは3つのグループに分けられる。個々のNBP遺伝子にT-DNAが挿入されたT-DNA挿入株を準備して、同じグループに属するNBP遺伝子の変異株間での掛け合わせにより多重変異株を作製し、その表現型観察によってグループ間で生理的機能に相違がある可能性を検討する。これによって、植物個体レベルでのNBPの機能の評価を行なう。さらに、植物個体レベルでのNBPの機能の評価として、NBP活性を抑制した形質転換体を用いたトランスクリプトーム解析とメタボローム解析を実施する。これによって、植物の硝酸応答のほぼ全てにNBPが関わっている可能性を調べる。
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