研究概要 |
自然界において植物の根は糸状菌との共生器官である菌根を形成している.本研究は植物を介するCの地球化学的循環に重要な役割をもつ菌根における,糸状菌と植物の異生物間の元素の受け渡し機構を組織・細胞レベルで明らかにすることを目的とする.課題I「細胞・組織内における元素移動の可視化」においては,昨年度構築したラン科植物の共生プロトコーム-樹脂切片法-同位体顕微鏡観察法を用い,本年度は外生菌糸への^<13>C(グルコース)および^<15>N(硝酸アンモニウム)による多重ラベルを行い,さらに1日~6日まで経時的調査を行った.その結果,菌糸由来CおよびNは1日目ですでに共生プロトコームの分裂組織に達し,核小体,アミロプラストへの選択的な集積が観察された.さらに菌毬(コイル状細胞内菌糸構造)の成熟に伴い,菌糸内両同位体比の急激な上昇がみられ,同過程における新規現象が明らかになった.さらに共生実生への^<13>CO_2ラベルでは,内生および外生菌糸へのCの移動が観察されたが,実生外生菌糸に添加した^<13>C(グルコース)の宿主への輸送も観察され,独立栄養期において,両方向のC輸送が機能することが明らかになった.これら同位体ラベルを行った共生組織のEF-TEM観察により,同位体元素の膜構造への集積が示唆された.菌糸内の異なる細胞構造に蓄積・存在するCd-Kの放射光により取得したXANESスペクトルのフィッティング解析を行い,同スペクトルに第二近接元素情報が含まれる可能性が示唆された.課題II「土壌生態系内元素移動の可視化」では,同位体ラベルを行った白紋羽病菌と拮抗的な放線菌との培地上対峙培養により放線菌へのC取り込みが観察された.菌根共生における細胞学的元素輸送機能について新規情報が得られたことにより,本研究手法が菌根学のみならず,生物学的に重要な解析法であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞・組織内における元素移動の可視化については,プロトコーム共生モデルを用いた系で,計画以上に進んでいる.しかし,アーバスキュラー菌根においてラベルを2回行ったがラベル,接種系等の検討が必要である.遺伝子解析については,さらに検討が必要である.放射光施設を用いた重金属輸送については,XANES分析で新たな知見が得られ,また土壌生態系における元素移動については培地上ではあるが微生物間輸送を観察することができた.
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今後の研究の推進方策 |
ラン共生系においては計画以上に進んでいるため,データ解析および論文化を進める.アーバスキュラー菌根系を用いた実験の検討が必要である,接種法の検討およびラベル強度の検討が必要である,CおよびNの受け渡し構造の分析を元に,遺伝子解析を進める.また,土壌生態系内においては,培地上での材料のデータ取得とともに,土壌を用いた試料作製法の構築が必要である.
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