研究課題/領域番号 |
22380045
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久我 ゆかり 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (30232747)
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研究分担者 |
和崎 淳 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00374728)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 菌根共生 / 物質輸送 / 同位体顕微鏡 / 微細構造 |
研究概要 |
自然界において植物の根は糸状菌との共生器官である菌根を形成している.本研究は植物を介するCの地球化学的循環に重要な役割をもつ菌根における,糸状菌と植物の異生物間の元素の受け渡し機構を組織・細胞レベルで明らかにすることを目的とする.課題I「細胞・組織内における元素移動の可視化」においては,構築したラン科植物の共生プロトコーム-樹脂切片法-同位体顕微鏡観察法を用い,13C(グルコース)および15N(硝酸アンモニウム)による多重ラベルの10hおよび20h処理を行い,受け渡し初期の解析を行った.その結果,切片全面解析では,非感染細胞にCおよびNが集積することが明らかになるとともに,共生菌感染により宿主細胞の炭素輸送に関わる代謝が大きく変化することが明らかになった.さらに輸送程度が非常に低いプロトコームの生菌糸が感染している細胞の分析において,アミロプラストへのCの一過的な流入,生菌糸と宿主細胞質の各同位体比の間に統計的に有意な正の相関がみられたことから,生きている菌糸からの元素の輸送が明らかになった.さらに,独立栄養に移行した緑色ランの実生における13Cラベル物質(CO2,グルコース)の移動解析により,膜面でのCの両方向の移動がある可能性が示唆された.課題II「土壌生態系内元素移動の可視化」では,温水処理による白紋羽病菌の衰退現象には熱による直接的な死滅効果のほかに土壌微生物作用が関わっていること,さらにその作用に関わる細菌群の一部がDGGE解析,接種試験,抗菌活性試験等により推定された.安定同位体をトレーサーとして細胞学的に検出する新規手法により,菌根共生における元素輸送機能における新しい視点・情報が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞・組織内における元素移動の可視化については,プロトコーム共生モデルを用いた系で得た研究成果をもとに,次世代シークエンスによる遺伝子解析に着手している.ラベルされたアーバスキュラー菌根における測定・解析の準備も進んでいる.土壌生態系内における可視化においては,解析に用いる材料として,植物-病原糸状菌-細菌間の相互作用の解析が進んでいる.一方,放射光を用いた実験は論文化・機器申請の都合により遅延している.
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今後の研究の推進方策 |
ラン共生系を用いて試料作製・データ取得法・解析法がほぼ確立された.画像情報をもとにした細胞学的分析の検討を進めるとともに,本手法を用いたアーバスキュラー菌根系の測定・解析に取り組む.土壌解析系では分析に用いる三重寄生系を完成させ解析に着手するとともに,菌寄生性菌根共生における元素輸送解明への本解析法の応用について検討を行う.次世代シークエンスによるCおよびN代謝の遺伝子解析を行い,細胞学的代謝解析を進める.同位体ラベル実験においてはTOF-SIMS等による分子分析,また,重金属の細胞集積については放射光を用いたXANES解析の検討を行う.生物学と表面分析法を融合させた新規生物間相互作用研究手法の構築に取り組む.
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