水田土壌における微視的な酸化還元状態のばらつきが、カドミウムの形態にも影響をおよぼすことが明らかになってきた。現地水田土壌では、水管理、有機物の混入度合などさまざまな要因が混在するため、カドミウム形態を変化させる支配要因を抽出することが困難である。そこで、ナイロンメッシュを用いた根域制御ポット試験により、イネを栽培し、根圏、非根圏の酸化還元電位の変動とカドミウム形態の関連を明らかにした。根圏、非根圏土壌固相を別々に採取後凍結し、SPring-8 BL01B1においてCd K吸収端X線吸収スペクトル近傍構造(μXANES)測定をおこなった。最小二乗法フィッティングから硫化カドミウムの存在割合を算出した。さらに逐次抽出法により土壌構成成分のうちどの成分がカドミウムのホストとして重要であるかを評価した。 イネ生育30日目までは、根圏域は非根圏域よりも酸化的であることに対応し、CdSの存在割合も根圏域では低く、非根圏域では高かった。生育60日目では、根圏域と非根圏域との酸化還元電位に差がなくなり、両者とも還元的な環境に遷移していた。それに対応するようにCdSの存在割合も、両者とも同程度となった。一方、水を抜いて栽培した期間については、根圏域の方がCdSの存在割合が大きくなる傾向が見られた、ポット内側にある根圏域はポット外側の非根圏域よりも酸化的環境への推移が遅かったことが関連していると考えられた。黒ボク土に関しては、生育30日目において、根圏域のほうが、非根圏域よりも酸化的であるにも関わらず、根圏域におけるCdSの存在割合が非根圏域の存在割合よりも大きかった。灰色低地土と黒ボク土を比較した場合、黒ボク土の方が根圏域、非根圏域ともにCdSが生成しやすく、酸化溶解しにくいという傾向が見られた。
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