過去数年間にわたる放線菌におけるゲノムプロジェクトの成果、および応募者らの二次代謝発現に関するごく最近の成果から、微生物とりわけ放線菌には通常条件では発現していない多くの「休眠遺伝子」が当初の予想をはるかに超えて多数存在する事実が明らかとなってきた。本研究は、応募者らが開発しつつある休眠遺伝子覚醒のための三つの技法、すなわち「リボゾーム工学」「天然の変異型RNAポリメラーゼ遺伝子の利用」および「希土類元素の利用」を用いて、これら休眠遺伝子の覚醒技術を確立し、かつそのメカニズムの概略を明らかにすることを目的とする。 初年度(平成22年度)は以下のような知見を得た。 1. 希土類元素の利用に関しては、放線菌Streptomyces coelicolorの休眠遺伝子の活性化において、希土類元素(スカンジウム、ランタン)が極めて有効であることを、転写解析とHPLCによる物質レベルの両面で確認した。RNAポリメラーゼ変異の導入法に比べて、希土類元素による活性化はその力はそれ程強くないものの、幅広い休眠遺伝子群の活性化を促すという事実も見い出した。 2. 放線菌の休眠遺伝子活性化において、ある種のチオストレプトン耐性変異が著効を示すことは既に発見していたが、今回この効果は特定チオストレプトン耐性変異によって細胞内ppGppレベルが著しく(野生型の10倍)増大するためであることを突き止めた。ただし、なぜ細胞内ppGppレベルがそのように異常上昇したのかは不明のままである。 3. 二次代謝発現には特定のシグマ因子も関与するが、シグマ因子の変異による抗生物質生産能の低下は、ppGppレベルの低下に起因することがあるという例を提示することができた。
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