研究課題/領域番号 |
22380058
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉村 徹 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 教授 (70182821)
|
研究分担者 |
邊見 久 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 准教授 (60302189)
|
キーワード | D-セリン / D-アスパラギン酸 / D-セリンデヒドラターゼ / アスパラギン酸ラセマーゼ / ピリドキサルリン酸 / ALS / D-アミノ酸 |
研究概要 |
本年度当初に計画した下記の5項目について、それぞれ研究結果を記す。 1)真核細胞型セリンラセマーゼおよび真核細胞型D-セリンデヒドラターゼの構造機能相関の解明。 細胞性粘菌由来セリンラセマーゼと出芽酵母由来のD-セリンデヒドラターゼについてX線結晶構造解析を進めた。また、後者については、部位特的変異やD-セリン2位水素の引き抜き反応の動力学解析などからZn依存性酵素であることが明らかとなった。 2)哺乳動物アスパラギン酸ラセマーゼの酵素学的研究。 ヒトおよびマウスのアスパラギン酸ラセマーゼの大量調製を計った。E.coliを宿主とし、それぞれの遺伝子を発現させた場合には、タンパク質はinclusion bodyを形成した。そのため、昆虫培養細胞を用いた発現系を構築した。 3)PEG修飾D-セリンデヒドラターゼによる体内D-セリン濃度の制御。 免疫原性の低下や血中保持時間の増加が認められたPEG修飾D-セリンデヒドラターゼをALSモデルマウスの脊椎に継続的に投与し、D-Ser濃度を低下によって、ALSの進行が押さえられるかどうかを検討した。しかしマウス体内のカプセルに埋め込んだ酵素の活性が低下し、脳脊椎液中のD-Ser濃度の減少は得られなかった。 4)D-セリン酸およびD-アスパラギン酸酵素定量法の病態解析への展開。 当研究室で開発したD-セリン酵素定量法を用いて、尿中D-セリンの測定キットを構築した。またD-アスパラギン酸オキシダーゼとオキサロ酢酸デカルボキシラーゼ用いたD-アスパラギン酸の高感度酵素定量法を確立した。 5)細胞性粘菌の生活環に対するD-セリンの影響 単細胞と多細胞の両生活環をもつ細胞分化研究のモデル生物、D.discideumのD-セリンデヒドラターゼ遺伝子の破壊株を構築した。破壊株では菌体内でのD-セリン蓄積とともに、柄と胞子への細胞分化の阻害が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年初に計画した5つの研究課題についてはすべて着手し着実に進行させた。うち2課題については所期の目的を達成した。また2件の新奇な発見を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
1)本年度の研究によって得た研究ツールであるD-セリンおよびD-アスパラギン酸の酵素定量法を用いて、生体物質中の両D-アミノ酸の解析を行い、これらが疾患等のバイオマーカーとなる可能性を検討する。 2)D-セリンデヒドラターゼはピリドキサル酵素としては初めてのZn依存性酵素である。本酵素の反応機構について、ピリドキサルリン酸の電子溜め機能の観点から解析を行う。 3)D-セリンが発生のシグナルとして機能する可能性については以前から指摘されていたが、分子レベルでの確証は得られていなかった。今回得られた細胞性粘菌のD-セリンデヒドラターゼ遺伝子破壊株は、これを立証する良いモデルとなる可能性がある。今後、D-セリンデヒドラターゼ遺伝子欠損の相補試験や同遺伝子の発現部位の検討を行い、この現象の確認を行う。またD-セリン合成系であるセリンラセマーゼ遺伝子の欠損株を作成し、D-セリン欠乏時の表現型を検討する。
|