研究概要 |
(1)米国JGIによりクラミドモナスのゲノム解析に用いられたCC-503株は、複数の挿入・欠失変異が含まれている事が判明している。一方、野生株C9は変異の報告は無く、光合成・生殖・鞭毛運動・走光性など,ほぼすべての生理学的特徴を保持する。そこでC9株ゲノムを、次世代シーケンサーHi-seqで再シーケンスし、CC-503株をレファレンスゲノムとしてアセンブルを行い、現在その解析を進めている。また、CO2濃度変化に関わる17種類の培養条件からRNAを抽出し、RNA-seqによる網羅的な転写応答を調べた。これまでに384,233,715リードの配列を取得し、ゲノム配列にマッピングし、CO2の濃度変化に応答する遺伝子群を同定した。アデニル酸/グアニル酸シクラーゼとリン酸化酵素や、PYP-1ikeセンサードメイン、F-boxドメイン、SETドメイン、BTB/POZドメインを持つタンパク質など、制御タンパク質をコードする多くの遺伝子がCO2欠乏環境において誘導されることが分かった。これらの発現情報を用いて、C9ゲノム情報と同時に表示できるKyoto Chlamydomonas Genome Database (KCGD)の構築・データ拡充を進めた。 (2)クラミドモナスは2つのヒドロゲナーゼ遺伝子を持ち、両者とも嫌気性条件下で発現が誘導されるという報告がある。クラミドモナスの水素発生機構を制御する因子を明らかにするため、細胞を嫌気的かつ硫黄欠乏条件に移し、RNA-seqにより遺伝子発現プロファイルを解析し、水素発生時に発現する遺伝子を網羅的に同定した。過去に報告された硫黄欠乏誘導性遺伝子は、今回同定した硫黄欠乏かつ嫌気条件下でも全て発現しており、嫌気性条件が加わることによって発現が抑制されるような遺伝子は見出されなかった。また2つのヒドロゲナーゼ遺伝子は、硫黄欠乏かつ嫌気条件下での発現誘導は見られず、従来の研究結果と一致しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2つのヒドロゲナーゼ遺伝子が嫌気性条件下で誘導されるという従来の研究結果は、本研究では再現しなかった。我々が整備した発現データベースを調べたところ、2つのヒドロゲナーゼ遺伝子は非硫黄欠乏条件下でも充分に発現量が蓄積していたことから、ヒドロゲナーゼはタンパク質レベルでの調節を受けているという可能性と、酸素により酵素活性が阻害されている可能性が考えられる。いずれにしても、ヒドロゲナーゼの転写誘導を制御するシグナル伝達を明らかにする研究を遂行するのは難しいと判断した。 今後は、本研究課題でデータ拡充が進んでいるデジタル遺伝子発現データベースを利用した研究をすすめる。具体的には、CO2だけでなく他の環境因子(光、窒素、リンなど)の変化に伴う網羅的な遺伝子発現をRNA-seqにより取得する。これらの発現プロファイル情報から、クラミドモナス遺伝子の強制発現及び遺伝子誘導系に用いることができる有用プロモーターを探索する。さらに、既存の無機炭素輸送体候補であるLCI1, LCIA, LCIB, HLA3, CCP1/2に加えて、今回新奇に同定された無機炭素輸送体候補遺伝子の機能解析をすすめる。探索したプロモーターを用いて、これらの無機炭素輸送体候補遺伝子の強制発現系及び誘導発現系を構築し、無機炭素の輸送能を増強させることができるかどうかを検討する。
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