研究課題/領域番号 |
22380061
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高木 博史 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (50275088)
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研究分担者 |
吉田 信行 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (10273848)
大津 厳生 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (60395655)
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キーワード | 酵母 / アセチル化酵素 / 酸化ストレス / 活性酸素種 / アミノ酸代謝 |
研究概要 |
Mpr1は高温や過酸化水素処理などの酸化ストレスで誘導され、プロリン代謝中間体(P5C/GSA)をN-アセチル化し、アルギニンおよび一酸化窒素の合成を促進することで、酵母に酸化ストレス耐性を付与すると考えられている。今年度は、Mpr1を介した抗酸化機構特にP5C/GSAの毒性機序とMpr1による解毒機構の解明を目的に研究を実施した。 まず、P5C/GSA代謝に関与している遺伝子の各破壊株(PUT1,PUT2,PRO3,CAR2)を作製し、P5C/GSAの毒性を検討した。また、細胞内のROSの主たる発生源である呼吸鎖が関与している可能性を考慮し、呼吸欠損株(ρ^0株)も作製した。その結果、PUT1,PUT2,PRO3,CAR2を破壊してもP5C/GSAに対する感受性は変わらなかったが、ρ^0株はP5C/GSAに耐性を示すことが判明した。また、ROSレベルもρ^0株では上昇していないことが判明し、P5C/GSAが呼吸鎖の機能に依存して毒性を発揮することが示された。次に、ミトコンドリアからのROS発生と呼吸鎖阻害に対するP5C/GSAの直接的な影響を検討した。野生株から精製したミトコンドリアにP5Cを添加すると、無添加に比べてsuperoxide anionが著しく増加した。一方、反応液から呼吸基質(コハク酸)やミトコンドリアを除くと、superoxide anionは発生しなかった。さらに、コハク酸で呼吸鎖を活性化した後の酸素消費量がP5Cの濃度依存的に阻害された。 以上の結果から、P5C/GSAは直接的にミトコンドリア呼吸鎖を阻害し、ROSを発生させることが明らかになった。また、Mpr1はP5C/GSAをN-アセチル化し、アルギニン合成経路を亢進ることで、一酸化窒素の生成に寄与するだけでなく、有毒なP5C/GSAが細胞内に蓄積しないようにして抗酸化能を発揮していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Mpr1について生理機能の解明とその応用を目的に、1)Mprlを介した抗酸化機構の解明、2)高機能型Mpr1の創製と酵母のストレス耐性への応用、3)高等生物におけるMpr1の機能解析とその応用、に取り組んでいる。1)については、当初の計画をほぼ達成しており、科学的に価値の高い知見が数多く得られた。2)3)については、Mpr1の立体構造解析に必要な結晶が生成し始めているため、今後の進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、Mpr1について生理機能の解明とその応用を目的に、1)Mpr1を介した抗酸化機構の解明(ROS制御の分子機構NOによる抗酸化機構など)、2)高機能型Mpr1の創製と酵母のストレス耐性への応用、3)高等生物におけるMpr1の機能解析とその応用、に取り組んでいる。1)については、概ね当初の計画を達成しており、今後、原著論文として成果の公表を行う。今後は、2)および3)の研究に特化する、特にMpr1の結晶構造解析を急ぎ、Mpr1の触媒反応機構の解明、および分子設計に基づく高機能型Mpr1の創製と抗酸化能向上に取り組む。
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