研究概要 |
18時間絶食させたラットにトリプトファン(Trp)(135mg/100g体重)を経口投与する実験系で、Trpの肝タンパク質合成促進機能およびTrpの脳に対する影響を解析した。 ・Trpが肝タンパク質合成速度に与える影響の解析(吉澤):Trp投与1時間後の肝タンパク質合成比速度を安定同位体で標識したPhe(L-[ring-^2H_5]phenylalanine)をトレーサーとしたPhe大量投与法で測定した。その結果、Trpの経口投与による肝タンパク質合成比速度の変化は確認されなかった。 ・発現量が変化するタンパク質の解析(蕪山):Trp投与3時間後に肝臓から常法に従って抽出したタンパク質を、二次元電気泳動法を用いて分離して、Trp投与によって発現量が大きく変化するスポットを調べた。その結果、Trp投与によって発現が増加したスポットが3個、発現が減少したスポットが2個確認された。 ・肝タンパク質合成促進シグナルの作用点の解析(吉澤):Trp投与1時間後に肝臓の4E-BP1のリン酸化状態、eIF4E・eIF4G複合体量、eIF4E・4E-BP1複合体量を、イムノブロット法で解析した結果、TrpはeIF4F複合体形成のためのeIF4Eの利用性を調整することで翻訳開始段階を刺激することが明らかになった。 ・Trpの脳に対する影響の解析(橘、吉澤):Trpはセロトニン(5HT)の前駆物質であることから、5HT神経系により不快情動を制御している脳部位である扁桃体に注目し、ラットが1日に食餌から摂取する1,2,4,8倍量のTrpを一度に経口投与したときの扁桃体細胞間隙5HTとその代謝産物である5-ヒドロキシインドール酢酸(5HIAA)の動態をマイクロダイアリシス法により解析した。その結果、5HT量はTrp投与によって変化しなかったが、5HIAA量はTrp投与1時間後から増加し始め、投与用量が多いほど高い状態が長時間持続したが、何れの用量でも最大値は同程度であった。
|