GPR120を発現させた細胞のカルシウムレスポンスを指標にした油脂に対する特異性の解析とリック試験による動物行動解析から得られるマウスの油脂嗜好性を比較すると、両者の特異性はよく一致していた。リック試験は試験液を消化吸収した後に得られる満足感ではなく、試験液を口にした時のおいしさを短時間に判定・評価するものである。従ってGPR120が舌上における長鎖脂肪酸の化学受容体のひとつとして機能しており、脂肪酸が好まれるのはそのGPR120刺激が寄与していることが強く示唆された。ミリスチン酸(C14:0)、ミリストレイン酸(C14:1)については細胞系では高い活性を示したが、リック試験ではこれらの脂肪酸に対する嗜好性は低かった。においやテクスチャーなどGPR120以外の要因が関与していることも推察できるが今後の研究が必要である。 マウスは0.25%の低濃度の長鎖不飽和脂肪酸を認識し、高嗜好性を示すことが明らかとなった。オレイン酸については0.125%の低濃度でも希釈液と比較してマウスは好んで摂取した。このことから、極めて少量の脂肪酸を添加することによって食品の嗜好性を高めることができる可能性が示唆された。 マウス舌上皮から単離した有郭乳頭味細胞を用いたカルシウムイメージングにおいても長鎖不飽和脂肪酸による応答が見られた。また、脂肪酸のメチルエステル体刺激では応答しないことも確認できた。これらの結果はGPR120安定発現細胞系におけるカルシウムレスポンスと同様な傾向を示している。 GPR120 ノックアウトマウスを作成し検討したところ、GPR120単独の欠損では、油脂に対する嗜好性は抑制されなかった。これらのことから、マウスの口腔内において食品に含まれる脂肪酸がGPR120およびその他の受容体との共同によって受容されていることが示唆された。
|