これまで、小腸上皮細胞内でのPPARα活性化を介した脂肪酸酸化の亢進が、動脈硬化のリスクファクターとして重要な一つである食後高脂血症を抑えるということを肥満・糖尿病を有していないC57BLを用いて検討してきた。本年度は、最終年度であるため、(1)病態モデルであるKKAyマウスを用いて、脂質代謝が変化する肥満・糖尿病条件下においても同様の作用が観察されるかどうか、(2)PPARαを活性化する食品成分によっても同様の作用が観察されるかどうか、という2点について検討した。 (1)病態モデルにおける検討:糖尿病時には、肝臓や骨格筋での脂肪酸酸化が抑制されることが知られている。そこで、PPARα活性化を介した脂肪酸酸化亢進による食後高脂血症抑制作用が、糖尿病状態下でも観察されるかどうか肥満・糖尿病モデルKKAyマウスを用いて検討したところ、1週間のベザフィブレート(PPARα合成アゴニスト)を投与により、糖尿病状態下でもPPARα活性化によって食後高脂血症が予防できることが示された。 (2)食品成分の検討:申請者らのグループでは、これまでに数多くのPPARα活性化能を有する食品成分を同定・解析してきた。それらPPARα活性化能を有する食品成分の中で、血中の中性脂肪濃度を抑えることが知られている、魚油に多く含まれる高度不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)について検討した。細胞レベルの検討では、DHA添加によりPPARαが活性化され、脂肪酸酸化に関与する遺伝子の発現レベルが上昇した。それに伴い、基底膜側への脂質輸送も低下した。そこでC57BLマウスに高脂肪食条件下でDHAを摂取させたところ、コントロールの高脂肪食の場合と比べて、オリーブオイル負荷後の血中の中性脂肪濃度上昇が有意に低下した。このとき、小腸上皮細胞でのPPARα標的遺伝子の発現や脂肪酸酸化活性はいずれも上昇していた。
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