腸管上皮バリアは、食物や外来異物と体内とを仕切るために極めて重要であり、その制御が崩れることは種々の疾病に繋がる。本研究では、免疫異常による腸管バリア損傷、および乳酸菌や乳ペプチドなどの食品成分による同バリア修復メカニズムを解析するとともに、バリア保護効果を有する食品の開発をめざすものである。得られた研究結果は以下の通りである。 1) カゼインペプチドによる腸管バリア増強効果は、主としてオクルディンの発現上昇によることを、ヒト小腸モデルであるCaco-2細胞におけるマイクロアレイ解析によって明らかにした。 2) 乳酸菌に含まれるリポテイコ酸による腸管バリア修復効果には、リポテイコ酸に含まれるD-アラニンが重要な役割をもつこと、および、乳酸菌の培養条件をコントロールすることで、D-アラニン含量を高めることが可能となることを明らかにした。 3) 腸管バリアに影響をもたらす免疫異常について、とくに炎症に関わるTh17細胞の観点から検討した。Th17関連サイトカインであるインターロイキン(IL)-6によって、バリアが損傷するメカニズムを解析した。さらに、食品成分としてヘスペリジン・ガラクトオリゴ糖・乳酸菌・ビフィズス菌が、炎症性サイトカインであるIL-17の産生を抑制できることを明らかにした。 4) デキストラン硫酸ナトリウム誘導腸炎マウスにおける乳酸菌の腸炎保護効果を確認し、腸管バリア保護やTh17抑制などを中心にメカニズム解析を行った。ビフィズス菌 B. infantisは、腸管における共刺激分子の発現増加を抑制し、Th1/Th17活性化を抑制することによって大腸炎を緩和することを示した。 これらの成果は、食品機能学の発展に具体的に寄与するとともに、乳発酵食品などの「腸管保護食品」の開発基盤となると考えられる。
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