ケルセチンは野菜果実に含まれる代表的なフラボノイド化合物であり、活性酸素消去作用や生体分子との結合を介して多彩な生理機能を発現する。一方、食事由来ケルセチンの吸収代謝経路の解明が進み、その標的組織や標的分子が注目されている。生体内に移行蓄積するケルセチンは正常時においては代謝物として不活性な状態で存在し、ストレス下において活性化され生理機構を発揮するという仮説「ストレス誘導活性化仮説」をわれわれは提示した。そこでストレスを負荷した動物および培養細胞を用いて、「ストレス誘導活性化仮説」を証明するとともにケルセチンが生体内の標的部位において多彩な生理機能を発現するダイナミクスを解明することを本研究の目的とする。本年度はケルセチンあるいはそのルチノース配糖体であるルチンを摂取させたマウスにデキストラン硫酸を投与することにより酸化ストレスを惹起させ、投与効果を検討した。その結果、ルチンのみが効果的に大腸粘膜の酸化ストレスを抑制したが、その抑制機構にペルオキシレドキシンの誘導が関与することが示唆された。次にケルセチンを摂取させたマウスを坐骨神経切除することにより、脾腹筋に酸化ストレスを誘導した。その結果、ケルセチン摂取によりミトコンドリア酸化ストレスが抑制されることをみとめた。筋管細胞(C2C12)を脂質過酸化物(13-HPODE)で酸化誘導し、ケルセチンの添加効果を検討した。その結果、ケルセチンは速やかにO-メチル化ケルセチンに代謝変換されるが酸化ストレス抑制作用は維持されることをみとめた。以上の結果から、経口摂取したケルセチンあるいはその配糖体は生体内で誘導される酸化ストレスを抑制することにより生体の恒常性維持に働くことが示唆された。さらにその抑制作用には直接的なROS消去作用とともに代謝物による間接的な抗酸化酵素(ペルオキシレドキシンなど)の誘導が考えられた。
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