研究概要 |
本研究は、L,D-セリンの脳内含量が生後から激減している 遺伝性セリン合成不全モデル(脳特異的Phgdh KOマウス)および 全般的なアミノ酸制限給餌条件下で胎児期と生後発達期を過ごした野性型マウス(アミノ酸制限モデル)を、神経系発達期の「初期低アミノ酸栄養ストレス」モデルとし、アミノ酸栄養不足や不均衡による統合失調症関連神経発達障害のリスク増加を、分子と行動のレベルで統合的に解明することを目的としている。本年度は前年度の成果を踏まえ、それぞれのモデルについて以下の成果を得た。 1)遺伝性セリン合成不全モデルは,感覚情報フィルター機能や社会性行動の低下等、統合失調症関連行動エンドフェノタイプを呈すだけでなく、海馬依存的空間学習能力の有意な低下とグルタミン酸およびドーパミン等の統合失調症に関わる神経伝達物質の刺激応答挙動に顕著な制御異常を見いだした。2)遺伝性セリン合成不全モデル大脳皮質の遺伝子発現解析により,ヒト統合失調症患者で有意な発現変化が報告されている複数の遺伝子について同傾向の発現変化を見いだした。 3)アミノ酸制限モデルは,用いる近交系を変更し,さらに通常食の50%量のタンパク質を含むAIN93G準拠飼料を給餌することにより,胎児期から離乳までの発達期にタンパク質・アミノ酸栄養に曝されたマウス個体を得ることに成功した。4)上記アミノ酸制限モデルの統合失調症関連行動異常を検討した結果,雌個体においてのみ感覚情報フィルター機能の指標となるプレパルス阻害が損なわれていた。 本年度の研究により,発達期アミノ酸栄養不足と脳内アミノ酸不均衡は,いずれも成年期の統合失調症関連行動異常発症リスクを高める要因であることを検証できた。
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