研究概要 |
本研究では,わが国の森林や緑化樹木に甚大な被害を及ぼしている樹木病原菌の伝播・繁殖機構を,分子生態学的手法により詳細に解明することを目的とする。平成22年度は,以下の成果が得られた。 1.マイクロサテライト(SSR)マーカーの作製 ベッコウタケのSSRマーカーを,複合SSR法により作製した。また,DNA抽出方法の改良とPCR反応に使用するDNAポリメラーゼの選抜により,ベッコウタケの子実体や罹病木の材片中の菌体から目的のSSR領域を効率良く増幅させる方法を確立した。 2.Raffaelea quercivoraの伝播・繁殖機構の解明 9府県(福島,新潟,富山,石川,愛知,兵庫,京都,鳥取,広島)10地点のブナ科樹木萎凋病被害林分から採集したR.quercivoraと媒介昆虫カシノナガキクイムシについて,SSRマーカーを用いて遺伝的構造を解析した。その結果,少なくともR.quercivoraが5つのグループに,カシノナガキクイムシが6つのグループに遺伝的に分化していると推測された。 3.Taphrina wiesneriの伝播・繁殖様式の解明 東京大学田無演習林内に生育するソメイヨシノ6本に形成された61個のてんぐ巣中のT.wiesneriの遺伝子型を,7遺伝子座のSSRマーカーを用いて調査した。その結果,1つのてんぐ巣内のT.wiesneriの遺伝子型は単一であり,異なるてんぐ巣間のT.wiesneriの遺伝子型は異なっていた。これらのことから,T.wiesneriは,てんぐ巣内で無性的に繁殖しながらてんぐ巣を発達させるとともに,子のう胞子の散布により枝から枝へ分布を拡大すると推測された。 4.ベッコウタケの伝播・繁殖様式の解明 千葉県松戸市の常盤平さくら通りにおいて,ソメイヨシノから発生したベッコウタケの子実体を採集した。
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