研究概要 |
カシノナガキクイムシによる穿孔とRaffaelea quercivoraの感染による傷害(病理的)心材形成における植物ホルモンの役割と傷害心材形成メカニズムを明らかにすることを目的とし、萌芽後約10年生のコナラ成木42本を選定して、サリチル酸ナトリウム(SA-Na)、ジャスモン酸メチル(Me-JA)、およびエスレル(Et)の樹幹注入を行った。処理区はSA-Na0ppm, 100ppm, 1000ppmとMe-JA 0ppm+Et 0ppm, Me-JA 1000ppm+Et1000ppmを組み合わせた計6処理区とした。薬剤注入は2012年8月30日と9月3日に100ml入れた点滴びんの先端を注入孔に差し込むことによって行った。試料は10月31日に採取し、材の解析によって変色体積、縦横断面の変色面積、および変色長を求めた。この結果、SA-Naのみでは横断面の変色に増加傾向が見られた。Me-JA+Etのみの処理区では変色面積は有意に増加した。すべての混合区ではMe-JA+Et処理区よりも変色面積が減少する傾向が見られた。 苗木を用いて、コナラ節のコナラとクヌギ節のアベマキのR. quercivoraの感染に対するエチレン生成能の差異を調べた。実験は3年生のコナラ、アベマキのポット苗を用いて行った。繰り返しは7本である。鳥取県林業試験場で分離・培養したナラ菌(Na-T1)をこれらの苗木に接種し、エチレン生成とチロース発達におよぼす影響を調べた。この結果アベマキはコナラに比べて感染初期に多くのエチレンを生成することが確認できた。さらにタイ王国においてAquilaria属樹種を用いた沈香生産の促進実験を樹幹注入法によって行い、これまでのペースト法と同様にMJ、Et、およびサリチル酸ナトリウムの組み合わせ処理によって顕著な沈香成分を含む傷害心材形成の促進効果を得た。
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