研究概要 |
ミズナラ(Quercus mongolica var.grosseserrata)は、遺伝的に北東日本と南西日本の2つのグループに分かれる事が知られており、北と南で異なる選択圧を受けてきたことが考えられた。適応は光環境の違いに対する異なる応答能力によってもたらされたと考え、そのターゲットとして光受容体タンパク質であるフィトクロムに着目し、遺伝子構造の解明および集団解析を行った。これまでにDegenerate PCRによってミズナラでは3種類のフィトクロム遺伝子(PHYA,PHYB/D,PHYE)が存在することが分かっていたが、それらの配列情報をもとにサザンハイブリダイゼーションを行った結果、各フィトクロムはシングルコピーとして存在することが確かめられた。これらについてInverse PCRを行いExon I内の約1.5kbの領域の多重アラインメントを行った所、PHYB/DとPHYE間の相同性が最も高く、PHYAと他2種間では低いことが分かった。現在ミズナラcDNAライブラリーを作製し、これから核遺伝子のクローニングと構造決定を行っている。またこれらの遺伝子について、南北6集団、各集団2~8個体の配列を決定し、集団解析を行った結果、北方集団のPHYAおよびPHYB/Dは、南方集団より変異の程度が高いことが分かった。一方日本各地で採集し、北大実験苗畑で育成したミズナラについて葉のフェノロジーを観測した。この結果、南方集団のもので開葉が遅れる傾向が3年連続で確認できた。さらにミズナラと共存するブナとカンバ類などブナ目樹種の被食防衛機構を追跡した。この結果、ミズナラは窒素沈着の影響を受けやすく、高窒素環境では被食防衛能力が著しく低下することが解った。開芽時期の違いだけではなく、生物ストレスというべき病虫害への応答もミズナラの分布に大きな影響を与えることが示唆された。
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