研究概要 |
1)環境変動に応答して適応的に働いている遺伝子の候補としてフィトクーム遺伝子に注目し、その発現調節に地域的な差違が存在するかどうかを調べた。材料として全国各地から採集し、北大実験圃場(札幌市)に植栽した実生を用いた。ミズナラのフィトクームについてはすでにPhyA, PhyB, PhyEの3つの遺伝子がクローニングされているので、9時、13時、17時に、日本の南北3集団ずつ、合計6集団の葉を採集し、RNAを抽出してRT-PCRをもちいてこれらの遺伝子の発現量の違いを調べた。その結果、時間的な発現量の差はいずれの遺伝子においても見られたが、有意な地域間の差はどの遺伝子にも見られなかった。すなわちフィトクームの発現調節に関わる遺伝子が環境変動に対して適応的に働いた証拠は得られなかった。 2)日本各地に広く分布するミズナラは中央構造線を境にして東北日本と西南日本で遺伝的な由来の異なる二つのグループに分けられることを報告してきたが、東北日本の集団についてさらに詳しい解析を行った。その結果、葉緑体のハプロタイプに見出される2つのタイプ、ハプロタイプIと、ハプロタイプIIについて、これまで北海道と、東北地方(早池峰山)に局在すると考えられたハプロタイプIの境界が、太平洋岸ではさらに南方に広がり、房総半島に達していることが明らかになった。 3)高濃度のオゾンおよびCO2濃度で育成したミズナラの光合成および病虫害耐性などの諸特性を調べた。その結果、増加し続ける対流圏オゾンに対して光合成速度の低下は認められないこと、また、高CO2濃度ではウドンコ病に対する耐性が促進されることが見出された。
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