本研究の目的はシロアリの各階級において、誘引・忌避を効果的に生じる波長および照度を明らかにするとともに、各階級の光受容サイトを複眼の発達と併せて確認し、シロアリの視覚特性を解明することである。 (1)光受容部位の特定 : 低真空走査電子顕微鏡を用いて複眼の外部形態を観察した結果、老齢のネバダオオシロアリ擬職蟻では、有翅虫と比較すると三次元的な隆起が乏しいものの複眼の明瞭な発達が認められ、複眼の視細胞レベルでの分光感度の測定および有翅虫と擬職蟻との比較が可能であることが示された。 (2)複眼の分光感度 : 有翅虫・擬職蟻ともに520 nm(緑)と360 nm(紫外)にピークが存在し、有翅虫の場合は360 nmの相対感度が520 nmよりも高いのに対して、擬職蟻は520 nmの相対感度の方が360 nmよりも高かった。また650 nm(赤)に対しては、有翅虫・擬職蟻ともにほとんど感度がなかった。 (3)走光性の波長依存性 : 様々なシロアリ種を用いて(擬)職蟻および有翅虫の走光性の波長依存性を行動実験により検討したところ、(擬)職蟻は短波長ほど負の走光性を示し、その傾向が紫外域で特に顕著であった。一方有翅虫ではどのシロアリ種も紫外域、特に375 nmの光照射時に光源へ向かって最も多く飛翔し、光照射範囲への滞在時間も他波長帯と比較して最も長くなることを明らかにした。光源への単位時間あたりの飛翔回数については、イエシロアリよりもネバダオオシロアリで多い傾向を示すこと、走光性を示さないとされるヤマトシロアリおよびアメリカカンザイシロアリの有翅虫でも、波長が短くなるほど光照射範囲内に滞在する時間が長くなることなどがわかった。また検討したシロアリ種では(擬)職蟻も有翅虫も長波長の可視光(赤色光)には顕著に反応しないことが明らかになった。
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