研究概要 |
アサリの浮遊幼生は、秋季に出現し, 干潟直上で最大密度 (14,400 inds./m2) に達し、数週間で着底期に入った。この時、浮遊幼生の分布には物理的作用と生物的要因の両方が重要であり、餌としては、 植物プランクトン、その細胞外代謝物などである可能性が示唆された。 着底後の死亡率については低く、安定期に入ると死亡率が低下することから、産卵サイズまで到達し易いことが示された。 このような過程を経て、アサリの生物量の年間平均は 8,700 gWW/m2 という、高い生物量が維持されていた。 密度および生物量が安定し、個体群が多くのコホートによって形成されるため、高い二次生産量を記録した。そのため、二次生産が活発化する夏季においては、底生珪藻の現存量を減少させていた。その一方で、生物活性の上昇に伴う、栄養塩類の再生産によって、底生珪藻の分裂速度を増加させていた。 定量的推定によると、アサリにより再生産された栄養塩の 52~92% が底生珪藻によって利用されている可能性が示され、埋在性二枚貝類による栄養塩類の再生産過程と底生珪藻による栄養塩類の取り込み過程を浮き彫りにした。このように、夏季においては沼内部における栄養塩の再生産過程が卓越することにより、その生物生産が維持されていることが示された。夏季においては表層水が暖められることにより、 海水が成層構造を発達させるために表層水中の栄養塩類は枯渇状態に近い 。そのため、冬季、外海水の鉛直混合が卓越することにより、沼内に高濃度の栄養塩が供給されることが明らかになった。この時期は、水温が 0°C を下回る環境であるにも関わらず, 低温適応した底生珪藻が栄養塩を取り込む可能性が示唆された。年間の親生物元素の収支に着目すると、この冬季における底生珪藻による取り込みが重要な位置を占めることが示された。
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