研究課題
魚類の卵構成成分の合成や蓄積は卵質を左右する重要な過程であるが、未解明な点が多い。本研究は魚卵成分である「卵黄球」と「油球」形成機構の解明を目的とした。1)種々のシステム(大腸菌発現系・昆虫細胞発現系・哺乳類細胞発現系)を用いて、卵黄前駆体ビテロジェニン(Vg)の受容体(VgR)について組換え蛋白を作製した。2)作製した組換えVgRの機能解析を行った結果、リガンドであるVgとの結合は確認できなかった。3)原始的硬骨魚チョウザメのVg遺伝子のクローニングを行い少なくとも2種のVg配列を得た。また、原始的脊椎動物ヌタウナギの2種エストロジェン受容体(ER)のクローニングと機能解析を行った結果、ヌタウナギERはエストロジェン結合性を示すものの、その発現動態は卵成長と関連しなかった。4)サケ科魚類を用いて、卵巣のVg結合性蛋白質(Vg受容体)の検出と同定を行った結果、少なくとも3種の受容体抗体陽性蛋白質とVg結合性蛋白質が一致する可能性が示唆された。5)マダイ・ヨウジウオの卵巣を用いて、2種のリポタンパク質受容体の免疫染色を行い、卵発達に伴う局在を明らかにした。6)サケ科魚類を用いて、血漿リポ蛋白質の分離を行った。また、蛍光標識した血漿リポ蛋白質の培養卵濾胞への取込み試験を行った結果、各種リポ蛋白質の脂質部分のみが卵母細胞内へ取り込まれることが明らかになった。更に血漿アポリポ蛋白質(ApoE)を免疫生化学的に同定した。本年度の成果により、卵黄球前駆体であるVg蛋白質の卵母細胞内への取込みには複数のリポ蛋白質受容体が関与することが示唆された。また、原始脊椎動物の卵黄形成機構の解明に向けて多くの基礎知見が得られた。さらに油球形成の主要経路として、血漿リポ蛋白質の脂質部分が取り込まれることが初めて可視化された他、リガンドとなる構成アポリポ蛋白質の一部同定が進んだ。
2: おおむね順調に進展している
本研究は魚卵成分である「卵黄球」と「油球」形成機構の解明を目的とし、H24年度は実施計画に挙げたほぼ全ての実験を完了した。従って、達成度を「おおむね順調に進展している」とした。一方、アポリポ蛋白質のMALDI-TOF解析による同定は年度内に完了には至らなかったが、代替として免疫生化学的手法により一部同定を完了している。尚、最終的な同定のため、アポリポ蛋白質の配列決定作業は継続して分析中であり、近々に結果が得られる予定である。組換えリポ蛋白質受容体の作製には、これまで複数のシステムを試行したが、機能的な組み換え体、もしくはそれを発現する培養細胞を得るには至っておらず、現在も他システムを試行中である。
本研究課題の目的を達成するため、本年度は以下の項目について実験を行う。1)機能的な組換えVgRの作製を継続する。機能的組換え体を作製できるシステムが確立された場合、VgR以外の各種リポ蛋白質受容体についても同様な組換え体を作製し、リガンド選択性等の機能解析を行い、卵黄球・油球蓄積過程への関与を考察する。2)発現した組換え受容体が機能的では無い場合、機能性を付加する因子・条件を探索する。各種リポ蛋白質受容体の卵巣における局在や生化学的性状についても、引き続き解析を進める。3)2種のチョウザメVg遺伝子の完全長クローニングを完了し、同蛋白質との関係性を明らかにする。また、ヌタウナギのVg合成機構に関して、前年度に引き続き解析を進める。4)新たな魚種(カレイ類等)におけるVgあるいはその受容体の性状について、知見を集積する。5)前年度に引き続き、サケ科魚類の血漿アポリポ蛋白質の分離・同定を進める。また、標識リポタンパク質の生体外・生体内における卵濾胞への取込み試験を継続する。H25年度は最終年度のため、これまでの研究期間中に得られた知見をまとめ、魚類の卵黄球・油球形成機構について総括する。
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