研究概要 |
近年、各地で展開されているクロマグロ養殖において,住血吸虫の寄生による被害が深刻になっているが,対策は確立していない。一方で、一部に未承認薬が駆虫剤として用いられている実態があり、食の安全上の問題となっている。そこで、クロマグロの安全かつ安定的な養殖生産に資することを目的として、本症を防除するための基礎研究を行う。 平成23年度には以下の実験を行い,成果を得た。1)駆虫実験:感染の確認されたグロマグロ幼魚10-50尾を小型の網イケスに収容し,プラジクアンテル(PZQ)製剤の経口投与による薬剤有効性試験を行った。その結果,心室に寄生する住血吸虫Cardicola opisthorchisは7.5mg/kg魚体重以上の用量の3日間連続投与で完全に駆虫されることを確認した。2)住血吸虫の虫卵による種鑑別および害作用の評価:鰹弁内に集積した虫卵の形態と遺伝子解析により,虫卵の形態によって2種を鑑別する方法を開発した。それによって,Cardicola orientalis卵は鰐薄板内に,C. opisthorchis卵は主として小入鯉動脈内に集積することを明らかにした。また,虫卵集積による害作用を病理組織学的に評価した。3)住血吸虫の人工培養液中におけるPZQの有効性評価:クロマグロの住血吸虫2種(C. orientalis, C. opisthorchis)を無傷のまま十分の数を準備することが困難であったため,コモンフグの内臓血管に寄生する住血吸虫Psettarium sp.に対するPZQの有効濃度を求めた。その結果,L-15培地内ではPZQ 0.2ppmを24時間以上作用させると全身運動を呈した。1ppmで24時間以上,5ppmで3時間以上の処理では死亡する虫体が認められ,薬剤無添加培地に戻しても,回復は限定的であった。薬剤処理した虫体のSEM像では,虫体の委縮や外被の傷害が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は研究の最終年度であるため,より実際の養殖に近い状態で投薬を行い,プラジクアンテル経口投与の有効性と安全性を確認する。また,駆虫後に再感染を受けたマグロが見られたことから,投薬後に定期検査をすることによって,マグロへの再感染が確認され始める時期,住血吸虫に対する免疫獲得の有無を検証し,投薬スケジュールを決定するためのデータを集める。Cardicola opisthorchisに対するin vitroにおけるプラジクアンテルの有効濃度、有効作用時間を明らかにする。研究計画の変更や研究遂行上の問題点は特にない。
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