研究課題
深海の熱水噴出域に生息する生物が、熱水中に含まれる硫化水素の毒性にどのように適応しているのかを、熱水噴出域固有生物の組織に特異的に蓄積しているチオタウリンと、その前駆体であるヒポタウリンという物質を手がかりとして解明を試みている。本年度の研究概要は以下の通りである。1.生物採集と実験:シチヨウシンカイヒバリガイを海洋研究開発機構の研究船なつしま研究航海NT12-10に参加した研究者に依頼して入手した。また、年度末の2013年3月にNT13-05に乗船する機会を得たので、同種を採集した。NT13-05では、条件の異なる3つのコロニーから個体を採集したほか、同一コロニーから採集した個体を異なる温度に曝露する実験を行った。また、システインやシステインスルフィン酸を注射する実験を行った。2.分子生物学的解析:ヒポタウリン合成に関わるシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD)の新たな分子種を発見し、cDNA全長を決定した。昨年度までに発見していたCSAD用遺伝子とは配列が異なり、分子系統解析では新しく発見した配列のほうが他の生物のCSADにより似ていることが分かった。新しく発見したCSAD遺伝子について、mRNA定量法を確立し、様々な硫化物濃度や塩濃度に曝露した個体の組織における発現を比較したところ、CDOや先に発見したもうひとつのCSAD様遺伝子と同様、条件に関わらず鰓で強く発現していることがわかった。3.メタボローム解析昨年のアミノ酸分析においては、ヒポタウリン合成の中間体であるシステインやシステインスルフィン酸を検出することができなかった。そこで、関連する物質の相対量を一斉に解析できるキャピラリー電気泳動によるメタボローム解析を行った。その結果、やはりシステインやシステインスルフィン酸は検出されず、そのさらに上流にあるいくつかの物質が検出された。
1: 当初の計画以上に進展している
目標としていた、生物の採集や投与実験、CSADcDNA全長の取得を完了することができた。さらに、予想外の成果として、CSADについては類似配列が2種類存在することを発見した。(昨年度までに部分配列を得ていた遺伝子は、同じ反応を触媒できる姉妹分子であるグルタミン酸デカルボキシラーゼである可能性が高い。)ムラサキイガイなどの浅海近縁種での実験を行うことはできなかったが、シチヨウシンカイヒバリガイにおけるヒポタウリン合成の場が鰓であることを明らかにしたうえで、キャピラリー電気泳動によるメタボローム解析を行うことで、昨年たてた仮説(システインやシステインスルフィン酸は強い酵素活性により速やかにヒポタウリンに変換されるため、ヒポタウリン合成の出発物質はシステインより上流の物質であるという)を確認するとともに、シチヨウシンカイヒバリガイのヒポタウリン合成を単一の経路でなく、代謝ネットワークとして理解できるようになった。
二つのCSAD様遺伝子の配列および活性の比較を行う。また、メタボローム解析の結果を活用しつつ、昨年度末の航海で採集し、合成中間体やその上流にある物質の投与を行ったサンプルのアミノ酸および遺伝子発現解析を行って、ヒポタウリン合成経路のネットワークを明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件)
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